水谷イズル

コンセプト

私の創作のプロセスは心の中に井戸を掘るのに例えることができる。井戸がまだ浅いうちは濁った水が出てくるが、深く掘り進むうちにきれいな水が湧き出てくる。濁りはエゴのようなものかもしれない。無意識の領域には、様々なものが形を変えて地層のように蓄積している、社会で起こる様々な出来事、日常での些細な出来事など。それら一つひとつに光をあて、それにふさわしい形を与え視覚化する。さらに深い領域では個人を超えた普遍的なものにつながっている。私の場合は技法や素材が先でなく、心の中に生まれてきたものにふさわしい表現を模索する。そのため、素材や技法はその度に変わる。絵画であったり、写真やビデオであったりインスタレーションであったりする。心を深く掘り進むと個人を超えた集合無意識という水脈に突き当たる。私はいつかあなたの心にもつながる地下水脈にたどり着きたいと願い作品を作っている。

心理カウンセリングを学び、アートは人の心を写す鏡のようなものだと考えるようになった。「見る」ということは、「目」で見ているだけでなく、「脳」で見ている。そこには、それぞれの取捨選択があり、その人の解釈が加わる。何を見て、何を受け取るかは観客が決めている。同じものを見ても100人100様の受け取り方がある。アート作品は、作品自体で完結しているものではなくて、観客と作品の間の関係性の中に生まれるものだと思う。私は観客が自分の心と対話する構造を作っているに過ぎない。人は自分自身で心を癒す力を持っている。人間は思い描いたビジョンを実現化するように行動する。未来は心の中から生まれてくるのだと思う。アートは心に作用する。観客が自らの心と深い対話をすることで心を支えることができたらと思う。