不自然な自然

コンセプト

光や風、音などの手触りはないが確かにそこにあった気配をカメラによって記録する。“特別な”景色ではないが、さまざまな要素が重なり合い、カメラというブラックボックスを通して記録した時にのみときどき現れるそれは決して肉眼で見ることはできないが、森の中を歩いている時に見た光の残像が瞼の裏に強く残り続け増幅し続けるイメージを思い起こさせた。目の前の現象や過去の記憶・体験がオーバーラップしていきながら、どんどん増殖していく。撮影地はいわゆる“自然”と呼ばれる山や森だが、その“自然”とはそもそもなんだろうか。カメラという真っ黒な人工物を持って森へ入るとその無機質さに違和感を抱く。しかし“自然”の定義は「人間を含む地球上のあらゆるもの」であり、無機質なブラックボックスも、それによって生み出される一見抽象的なイメージも全て“自然”の中の一つである。カメラの目でしか見ることのできない景色を重ね合わせることでつくられたそれは誰の目にも映らない人工的な景色だが、カメラで撮影したことでこの景色が実在していたことを証明してくれる。私はその全てをひっくるめて改めて「自然」であると認識し直さざるを得ない。また、その感覚やイメージを繋ぎ止め、確かなものにするために針と糸を使い写真に刺繍を施すこともある。写真に写るかすかな線を糸で辿って確かさと不確かさを行き来しながら、カメラでは記録しきれなかった色や線が写真の上に積層していくことで、それは自身が見てきた記憶が増幅するイメージのようになっていく。全ての作品において、私はいくつかのルールや制約によってイメージを増幅させるマシンとして写真に操られ、見たことのない景色が強いリアリティを持って目の前に現れ続ける。