7枚組の連番写真作品《粧 - Guise》のうちの1枚(6場面目)。典型的な17世紀オランダの花の静物画、デ・ヘームという名で大量に描かれた当時の流行絵画をモチーフに、撮影された静物写真シリーズです。このシリーズは7連作となっており、普段は公開することのないセットを作る過程から撮影を開始。暗闇に花瓶だけから始まり、徐々に花を活け、セット完成後、花が枯れていく、その全行程を撮影、記録していきました。父ヤン・ダヴィス・デ・ヘーム(1606-84年)を筆頭に息子2人も静物画を描いている17世紀オランダの画家デ・ヘーム。弟子も多く、誰のものかを見分けるのが難しい程、それらの作風はよく似ています。また、同じモチーフや同じような構図で何パターンもの別の花の静物画が存在しています。あまりにも似すぎている花の静物画群「Flowers in a Glass Vase」(1660年)など数点を参照しながら、ある時点では、ある静物画に見え、別の時点では、別の静物画になりつつ、撮影は進行していきました。よく観察すると、花瓶の中にはもうさせなくなった大量の花の多くは花瓶の後ろから出ています。また枯れた花の影には蝶や蜂が飛び回っています。絵画という虚構の世界の中で、強引に針金によってねじ曲げる花々が織りなす、日常からはかけ離れた奇妙な美の形が見てとれます。