ニュース番組などが流れるデジタル液晶TVの受信部を接触不良にして、グリッチノイズが発生した液晶画面をストレートに写真撮影した。撮影後のデータを回転・トリミングすることで、元の映像の文脈は取り去られている。偶像を失った画を見る者は「読み取る欲望」に突き動かされ、自らを投影して幻の視覚的現実を生成してしまう。
メディアを用いた伝聞行為は、ホモサピエンスが共同体として学習し、見知らぬ他者と協力しながら生存する上で重要なファクターで、その仕組みを支えるマス・メディアが現実認識のあり方を規定してきた。テレビが支配的であった20世紀は、そこから得られる情報が社会の大部分の人の現実認識のフレーミングを画一化させてきた。しかしメディア環境が瓦解するように多様化し、膨大な量の写真映像に注意力を奪われ、巧妙なフェイク情報さえ溢れるいま、人類の集団的経験は大きく変化する最中にある。
人間は、ノイズの海からシグナルをフィルタリングし、星座を結ぶように物語を紡がずにはいられない。些細な事実やエラーに注意を深く傾けることで、明るい洞窟の外につながる扉がひらかれ、太陽の光は差し込む。