UV inkjet print on acrylic
静かで温暖な日本の瀬戸内海で育ったせいか、森は常に興味が尽きない場所だった。樹々の間に感じる気配に畏敬の念を覚え、森は私を惹きつけてやまなかった。2月に冬の八ヶ岳山麓を訪れた。 撮影機材と孤独が私に重くのしかかり、刺すような寒さが体温を奪う。彷徨うように歩いていると、いつの間にか知らない世界に引き込まれている。行ってはいけないとあらがうが、心は乱れ、酩酊したように意識が遠のく。瞼の裏を大きな影がゆっくりと舞った。 まるで笑うようにポーズをとって、影が私にカメラのシャッターを切らせた。一瞬のようにも、とても長い時間のようにも思えた。目を開くと私は森の中にいた。森は何も言わずに私を見下ろしている。きっと昔から日本の森に棲む精霊たちが、私を誘いこんだのだ。