ボゴタは語られることの少ない街だ。人口800万を誇るコロンビアの首都かつ最大の都市でありながら街の大部分はただそこに住み淡々と日常をこなすためだけに存在するかに見え 、ツーリスト的付加価値のある『場所』として対象化されることがあまりない。
市民の大半がボゴタについて口にするのは大気汚染や、非効率な公共交通機関のシステム、赤道から至近距離であるのにもかかわらず寒く曇りがちな気候、大都市特有のインパーソナルな接客、泥棒の多さなど愚痴であることが多く、一方で市当局が推進する「ヒューマンなボゴタ」というスローガンは抽象的に過ぎてボゴタがいったいどんな街なのか具体的な像を結ばない。
このようにあまり褒められることのないボゴタだがそこにはとにかく800万人以上の人々が暮らし、セントロ(ダウンタウン)、チャピネロ、ソナGなどきわめて限定された商業文教地区の外側には無名の住宅地や倉庫街、高層団地などが広がっており、そこは外国人ばかりでなくローカルな住民の大部分にとってほとんど知られざる場所となっている。
本作品はボゴタ市の無名の地区をカメラを片手に歩き、そこに展開される日常風景や人々の表情を撮影したZona Turistica (観光ゾーン)シリーズのうちの一作である。