架空の庭を描いています。そこはいつも夜で、風が凪ぎ、植物が生い茂っています。その庭がどこにあるのか誰も知らず、誰も立ち入ることはできません。子供のころ、飼っていた猫を庭に埋葬しました。しばらくして、ふと会いたくなり掘り起こしました。猫は白い骨になっていました。近くに生えていた蘭の赤い根が、血管のよう...

架空の庭を描いています。そこはいつも夜で、風が凪ぎ、植物が生い茂っています。その庭がどこにあるのか誰も知らず、誰も立ち入ることはできません。子供のころ、飼っていた猫を庭に埋葬しました。しばらくして、ふと会いたくなり掘り起こしました。猫は白い骨になっていました。近くに生えていた蘭の赤い根が、血管のようにびっしりと絡みついていました。猫は蘭に食べられたのだと思いました。その光景は、とても恐ろしくとても美しかった。その体験以降、私にとって植物は癒しを与えてくれるものと同時に、強く死を暗示させるものです。この作品にも植物が描かれています。瑞々しい緑の葉、鮮烈な赤、肉厚の白い花弁。花は「生」といずれ必ず訪れる「死」を表しています。２つの手は私自身の手です。実際に身につけている装飾品や手のしわも忠実に描きました。完全な形ではなく手首までの手です。どうしてなのか自分でもまだ分かりませんが、不完全な形の手を描いたほうが美しいと感じるのです。ギリシャ彫刻の壊れた像を美しいと思うことと似ているような気がします。【技法】
キャンバスに油彩。キャンバスを張ったあとに何層も下地を重ねて平滑な画面を作っています。その後、透明の緑をさらに何層も重ねて背景の暗さを表しています。背景の黒は黒色ではなく、濃い緑の重なりで黒に見えています。植物や手を描くときも、不透明色と透明色を何層にも重ねて色を作り出しています。そうした工程を繰り返すうちに、絵の具は物になり、宝石のようにキラキラと美しい発色を得るようになります。