Glimpse

コンセプト

私は、「具象と抽象のあいだ」を表現することに興味を抱き、作品制作に取り組んでいる。「具象と抽象のあいだ」を描きたいと思い始めたきっかけは、2014年にブリジストン美術館で開催された「ウィレム・デ・クーニング展」だ。美大の卒業制作に取り組む中で、自分が本当に描きたい絵画とはどのようなものだろうと悩み始めた時期に、偶然出会ったデ・クーニングの作品を通して、絵画の方向性を見出したと感じた。しかし、実際に具象を抽象化しようとすると、想像以上に難しく、画面は破綻を繰り返した。具象的表現と抽象的表現は必ずしも対立するものではないことをデ・クーニングの作品から感じ取れるが、具象の抽象化を試みると、画面は混沌とし、何が何だかわからなくなっていく。まるで画面上で具象と抽象の戦いが起きているようだ。なかなか完成しない絵を前に、そもそも私が「具象と抽象のあいだ」に惹かれる理由は何であるのかを探ることにした。ウィレム・デ・クーニングは美術史上、抽象表現主義の画家に分類されている。抽象表現主義は、抽象的な表現を通して精神面を表すことが特徴だが、抽象的表現によって表現できるものは感情や内面に限られるのだろうか。私は、「具象と抽象のあいだ」を通して表現したいものを探るために、まず描きたいと感じるモチーフを具象表現によって徹底的に描いた後、その完成した具象作品を元に抽象化するアプローチ方法を試した。その結果、私が抽象的な表現で表現したいのは精神面だけではなく、描きたいという感情を引き起こしたモチーフそのものが持つ、イメージの重なりや変化の様相であると気が付いた。描きたいと感じるモチーフは、花であれ、景色であれ、同じ状態に留まることはほぼなく、刻一刻と変化していく。視界に映るものは常に流動的であり、写真のように静止画で捉えるのが難しい。イメージは他のイメージに侵食され、絶えず変化し続ける。私はモチーフを通して精神面を表現するとともに、さまざまなイメージが重なり変化していく様を複合的に捉えて表現していきたいと考えている。そのために、具象と抽象、両方の表現を用いて破綻と再生を繰り返しながら「具象と抽象のあいだ」を模索し、画面と格闘した痕跡を残す作品を今後も制作していきたい。