シリーズ「 桜」より
「SAKURA」シリーズは、「桜」が生み出す時間や空間、記憶を作品に落とし込みたいという目論見から始まりました。2022年の作品群では、「すべての個体がクローンである」というソメイヨシノの性質にインスピレーションを受けつつ、群体としての桜が持つ「個」を超えた広がりを捉えようと試みています。その背景にあったのは、「個々の存在がいかに儚いものであるか」という実感、そしてそれを乗り越えるための平穏や生への願いです。個でもあり群でもある、その曖昧な広がりにこそ、そうした願いの場所があるのではないか。そんな思いが「SAKURA」シリーズを始める大きな動機のひとつでした。本作の「桜」を特徴づけるのは、そうした群体としての広がりに、さらに「動き」の要素を与えるような風や光の表現です。桜の色面に満たされていた絵画空間は、その外部にいる他者や、何かが到来するその根源の場所を感じ取ることで、むしろ自身の「個」としての輪郭を見つけ出します。今の私にとって、桜のうねりを描くことは風や光、色を通じて、自らと世界を確かめ、喜びを共有することに繋がっているのです。