KENDYの作品は全て後述するアーティストステートメントに基づいて制作されております。
この作品のテーマは、シェイプトキャンバスで表現する限界の超越です。彼は高校を中退後、大学を入学した稀有なキャリアを持っています。そして正規の美術教育を受けていません。故に彼の作品は、他と違う柔軟なアプローチから入り、日露のクォーターというアイデンティティの欠如へと包括され表現されます。つまり、どの国においてもアウトサイダーである彼特有のネガティブな側面をアートによって超越しようとする試みであるとも言えます。四角のキャンバスという規定枠からの脱却は、国境や人種間の超越、すなわち自由への渇望を表現していると言えます。人が内に抱える対立した要素をつなぎ合わせ、その枠の外へ突き破ることはクリエイティブイノベーションには必要不可欠な要素となっています。そしてそれは、文化刷新の責務を負うアーティストとして最も大事な点でもあります。これらが鑑賞者に伝われば幸いです。
・アーティストステートメント
KENDYは、東洋と西洋、デジタルとアナログという二項対立の世界を共存させた” VISURAL ROCK PAINt”という新しい芸術概念を生み出しました。多様性を受け入れ発展してきた日本発の文化的価値観を基に、人種差別撤廃や世界平和への想いを込めた作品を制作しており、アメリカを中心に国際的な活動を行なっている芸術家です。
彼の芸術概念は、ロシアの芸術家ワシリー・カンディンスキーからはじまり、リヒター、ジャクソン・ポロックと繋がってきた抽象芸術の歴史的な文脈にあります。ロシア芸術のレイヨニスムを”光”に見立て、そこに禅芸術を加える事で、啓蒙思想的な芸術を体現しています。一方で、日本のヴィジュアルロックミュージックという日本の独自芸術文化を、文化財産として世界の芸術のコンテクストに文化保存していこうという取り組み・役割もあります。これは彼がヴィジュアルロックミュージシャンを志した体験に基づいています。
彼のペインティングスタイルにはアンディウォーホルのシルクスクリーンを現代的に解釈したデジタルシルクスクリーンとアナログ的なアクリルペイントを混合した独自手法が採用されています。これは近い未来にAIの進化によって、人が直面する「共生」という社会問題を、現代に生きる多くの人に知ってもらいたいという日本とロシアのクォーターらしい彼独自の新しい芸術手法とも言えます。
前述のワシリー・カンディンスキーが開拓した抽象表現の歴史的な推移の流れの中に、アクションペインターのジャクソン・ポロックがいます。そして、日本芸術家の白髪一雄氏も、この流れを汲んでいます。身体運動と絵画をダイレクトに結びつけたラディカルなアクションペイントの手法に、悟りにおける感覚や身体をより重視した仏教、とりわけ密教とアクションペイントを融合させた氏は、自らの前衛的な手法を「フットペインティング」と呼称し、世界的にも注目されました。KENDYの「VISURAL ROCK PAINt」は、この美術史の流れを踏襲しており、数学的な要素の強いロシア抽象芸術のレイヨニスムや幾何学的な要素の強い北欧芸術を融合し、独自のスタイルへと発展を遂げ現在に至ります。
ところで、KENDYが絵を独学で学んだということも、「VISURAL ROCK PAINt」という独自の標語を生むにあたり、強く関係があります。彼は、幼少期にアートで受賞していた事を除くと、アカデミックな美術バックグラウンドを持っていません。そのため、他ジャンルのものづくりからヒントを受け作家活動をはじめました。KENDYは以前、ヴィジュアルロックミュージシャンとして活動していた時期があります。故に、絵画以上に、音楽的な創作知識の方を多く持っていました。その中で、ジャンルの住み分けがはっきりしている欧米のロックよりも、様々な音楽を柔軟に吸収し欧米のロックにはない独自の世界観を構築した日本のヴィジュアルロックを参考にし、本来は邂逅しない全く異なる2つの要素、“日露文化”を結びつけて彼独自の新しい作風を生み出すことに成功しました。
音楽と絵画は異なる表現である。という声も聞こえてきそうですが、ラッパー兼音楽プロデューサーでありアートコレクターのスウィズ・ビーツも音楽とアートは表現の世界において非常に密接な関係にあることを認めています。ヴィジュアルロックミュージック自体は、欧米の音楽マーケットの性質上、食い込むことがなかなかに難しい反面、このようなサンプリング技術は、アートの世界では、80、90年代からシュミレーショニズムとして普及しています。この点において、キャリアが浅いながらも早い段階から欧米のコマーシャルギャラリー展示では、KENDYの作風は比較的受け入れやすかったのではないかと考えられます。