藤本の具象的なモチーフを用いた作品展開の中で、本作は特異点のような作品です。制作年の2009年は、画家として、一人の人間として内省的な時期でした。内蔵のような本作の画面も、内へ内へという自分の意識ベクトルが生み出した産物だったのではないかと回想します。ダークで生々しいテイストは、他の作品にはあまり見られないものですが、自分のマインドの一部であることは確かです。臓器のような画像表現そのままで展開はしませんでしたが、有機的でカオスな映像を表現するという意味では、2015年から始める非具象絵画「Layers of Color」シリーズにも繋がっています。手法は他の藤本作品同様に、合板に下地処理した後、アクリル絵具の積層と研削で制作しています。制作の流れとしては、原寸大の線画を、画面とは別のトレーシングペーパーに作成します。そして、塗り重ねる色のレイヤー構成をプランニングしますが、必ずしもモチーフの持つ固有色には拘らず、絵画的に良いと感じる色をチョイスしていきます。線的にも色面的にもプランがある程度決まったら、トレーシングペーパー上の線画をパネル上に転写し、本画制作に入ります。画面では、下塗りと木目を潰す削りによるプレパレーションの後、部分、ベタ合わせて20層以上描写としての塗りを重ね、水をかけながら耐水サンドペーパーでの研削をしていきます。削っては画面をモニターすることの繰り返しで完成と思える画面が現れてきます。使用パネルは表裏両面貼り。画面、側面、裏面と全面に地塗りしてあり、側面の仕上げはブラックにしています。画面と側面は平滑なマチエールなので作品をふきん等で拭き掃除することもできます。作品裏面もパネル貼り後アクリル絵具で塗装して作品耐久性を上げています。展示用ヒモ付け済み。ペインティングの特徴のひとつである「重層的なマジック」を利用して、支持体の上にのみ存在する光景をつくる。1999年以来「アクリル絵の具の積層と研磨」という一貫した技法とマチエールで 絵画の可能性を追求しています。