2015年から始めた「Layers of Color」シリーズは、具象的モチーフの構造から解放されたところで、純粋視覚現象のような絵画を追求しています。本作は2021年の2作目、シリーズ全体で50作目にあたります。
明確なテーマも、メッセージも、モチーフも、プランも無いところから、アクリル絵具の積層と研削によって、完成と思われる画面を(向きも含めて)決定するというのが、本シリーズの基本的手法です。
本作は、自作のエスキースを元に制作を始めました。その少し前に、アイデア出しとしてまとめて何枚かまとめて水彩の連作ドローイングを描いたのですが、その中の一枚が本作を制作する際のモチベーションにしています。
「モチベーチョン」という表現をする理由は「そのまま忠実に色や形を描くわけではない」からです。
エスキースの色や構図をある程度はガイドにしはするものの、20層以上にも及ぶレイヤーとして分解再構成して積層し、それをまた即興的な判断で削って画面を見つけていくので、完成画面はまるで別の絵面になります。
まるでノープランではなくて、制作のエネルギーを打ち上げる起爆剤としてのエスキースの使い方、その後はその勢いに乗って即興的な判断を積み上げて完成する。
本シリーズの比較的大きなサイズで行う手法を、S4サイズの小品でも試したというわけです。
本シリーズの制作動機は、「絵画にしかできないこと」を私なりに追求してみる良いやり方だと思ったからです。
支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。物理的な結晶としての絵画。
そんな作品をを見てみたいという私の欲求の産物と言えます。
キャンバスは表裏両面に入念な地塗りによるプレパレーションの後、一旦仮板の上に張ります。
画面側に部分、ベタ合わせて20層以上の描写としての塗りを重ねます。
そして、水をかけながら耐水サンドペーパーで研削しながら画面を造っていきます。
仮板の上で制作し、完成後は清掃乾燥させてから木枠に張って完成となります。
画面は、削り出しているため平滑で、ふきんなどで拭き掃除もできます。
絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。
制作を志した頃からの、私の欲求に沿ったやり方を1999年に見つけました。
以来、「アクリル絵具の積層と研削」という一貫した技法・マチエールでペインティングの可能性を追求しています。