“how to go”は風景画を展開していく中で生まれたシリーズで、低い地平線の構図が特徴です。2007年からの不定期連作で、これまでに5点制作しています。画面下縁に、人を含めた生き物が点在する光景が広がっていますが、地平線から上が大半を占めるので、画面全体としては単一色の塊のようにも見えます。鑑賞者個々の記憶にリンクする画像的な要素と、色のオブジェとしての物質的な要素を共存させた作品です。タイトルは作者の好きなロックバンドのある曲にちなんでいます。その曲の持つ雰囲気が、このシリーズの構想に重なりモチベーションソングとして役立ちました。シリーズの第1作目にあたる本作は、青空の下に広がる「どこにでもありそうでどこでもない風景」です。個展では、「北海道で見た風景に似ている」「イタリアで見た風景に似ている」など、鑑賞者ごとにご自身の記憶にあるいろんな場所にリンクしたコメントをもらいました。藤本は作品が「感覚の乗り物」として機能して欲しいと考えています。絵画は平たいオブジェとして壁にじっとかかったままですが、鑑賞者が作品を見ることを通して、日常から少しトリップするような体験になると嬉しいです。作品の制作方法や発色、マチエールは他の藤本作品と同様です。合板に下地処理した後、アクリル絵具の積層と研削で制作しています。制作の流れとしては、原寸大の線画をトレーシングペーパーに作成します。 そして、塗り重ねる色のレイヤー構成をプランニングしたら、下地処理した合板パネルの上に線画を転写して本制作に入ります。使用パネルは表裏両面貼り。画面背景色と同色が側面にも塗り重ねられています。 画面には、下塗りと木目を潰す削りによるプレパレーションの後、部分、ベタ合わせて20層以上描写としての塗りを重ね、水をかけながら耐水サンドペーパーで研削していきます。削っては画面をモニターすることの繰り返しで完成と思える画面が現れてきます。 作品の画面、側面は平滑なマチエールなので作品をふきん等で拭き掃除することもできます。 作品裏面もパネル貼り後アクリル絵具で塗装して作品耐久性を上げています。絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。 制作を志した頃からの、私の欲求に沿ったやり方を1999年に見つけました。 以来、「アクリル絵具の積層と研削」という一貫した技法・マチエールでペインティングの可能性を追求しています。