2015年から始めた「Layers of Color」シリーズからは、具象的なモチーフの構造から解放されたところで、純粋視覚現象のような絵画を追求しています。本作品は、2017年に入ってからの第2作、同シリーズ通算第28作です。明確なテーマも、メッセージも、モチーフも、プランも無いところから、塗りや削りの工程が一つ終わるごとに、次の工程をジャッジしていき、やがて完成と思われる画面が(向きも含めて)決定されます。本作は、この時点で一番小さいスクエアサイズであるS3号サイズです。加えて「強い色を使わないオーガニックな感じにする」という漠然としたテーマがありました。あとはフリーな流れで自然発生的な展開で、この画面に収束しました。おとなしめの色調ですが、下部レイヤーと上部レイヤーの関係から、植物の化石を掘り起こしたような面白い画面が現れました。キャンバスは表裏両面に入念な地塗りによるプレパレーションの後、画面側に部分、ベタ合わせて20層以上の描写としての塗りを重ねます。そして、水をかけながら耐水サンドペーパーで研削していきながら画面を造っていきます。仮板の上で制作し、完成後は、清掃して乾燥させてから木枠に張るので、制作上、衛生上にも支障なく、マチエール特性や発色のクオリティもキープできていると思います。画面は、削り出しているため平滑で、ふきんなどで拭き掃除もできます。絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。その支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。物理的な結晶としての絵画。制作を志した頃からの、私の欲求に沿ったやり方を1999年に見つけました。以来、「アクリル絵具の積層と研削」という一貫した技法・マチエールでペインティングの可能性を追求しています。