本作は「Layers of Color」シリーズ、2019年制作の7作目、シリーズ全体の42作目にあたります。
アクリル絵具の積層と研削という手法とそこから生まれる発色・マチエールは藤本の全作品を共通する特徴ですが、対象物(モチーフ)の 構造から解き放たれた、純粋な視覚現象のような絵画を追求しているところが本シリーズの特徴です。
この「1907」は、シリーズラインナップの中の1点であると同時に、とあるコミッションワークのスタディモデルとしての役割もありました。
白と赤を基調とした鮮やかで有機的なイメージをまずこの小品で制作し、その後もっと大きなサイズのコミッションワークにも発展したというわけです。
色とレイヤー構成を試す意味もありましたが、もちろんこの「1907」自体で自立した絵画作品です。
また、本作は久しぶりに合板パネルを支持体にした作品でもあります。
表裏両面張りの合板パネルを全面プレパレーションし、画面と側面には描写として20層以上の塗りを重ねます。
塗りの後に、水をかけながら耐水サンドペーパーで削り出しながら画面をモニターし、完成と思える状態を見つけていきます。
作品裏側にはパネル内の通気のためのスリットがありますが、そこにピンやフックを掛けることで壁面に設置ができます。
ノイジーで触覚的な画面ですが、削り出しのためマチエールは平滑で、布などで作品を拭くができます。
ペインティングの特徴のひとつである「重層的な魔法」を利用して、絵の具による支持体の上にのみ存在するスペクタクルを実現する。物理的な結晶としての絵画。
1999年以来「アクリル絵の具の積層と研磨」という一貫した技法とマチエールで 絵画の可能性を追求しています。