「帰還」は移動する人影が点在する風景画にしばしば付けるタイトルです。
本作「3」は干潮のリーフ遊びから引き上げてくる3人の人影が遠くに見えます。
(「 1」と「2」は下山する人影がある山の風景でした。)
広がる浜とリーフは、沖縄県八重山諸島の一つである竹富島の風景画像を元に、デッサンを起こして作画しています。
家族旅行した際に父が撮った一枚のスナップ写真が元ネタですが、あくまでソースとしてのものです。
そこから自分のデッサンを経て線画になり、アクリル絵具の塗りと削りによる重層的メチエを通過していきながら絵画上にしか存在し得ない光景にしていきました。
パネルは合板が表裏両面に貼られています。画面はもちろん、側面や裏面にも地塗りをして作品の耐久性を上げています。
側面にも画面の背景色(ライトブルー)で塗りと削りを施しています。
制作の流れとしては、日本画の大下図のようにモチーフの配置を主に記した原寸大の線画を、画面と別のトレーシングペーパーに作成します。そして塗り重ねる色のレイヤー構成をプランニングします。 線的にも色面的にもプランがある程度決まったら、トレーシングペーパー上の線画をパネル上に転写し、本画制作に入ります。
使用パネルは表裏両面貼り。画面、側面、裏面と全面に地塗り。画面背景色と同色が側面にも塗り重ねられています。 画面では、下塗りと木目を潰す削りによるプレパレーションの後、部分、ベタ合わせて20層以上、描写として塗りを重ねます。そして、水をかけながら耐水サンドペーパーでの研削を、完成画面が見つかるまで繰り返します。
作品裏面のスリットはパネル内通気ダクトですが、設置の際、ピン、フック類も引っ掛けられます。 また、削り出しによる平滑なマチエールなので、作品をふきん等で拭き掃除することもできます。
アクリル絵具の積層と研削で、絵面を描き出していく手法自体は、非対象フリー絵画「Layers of Color」とも変わらない共通性があります。よって本シリーズの作品においても、そのマチエールや発色感は一貫しています。
絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。
支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。
制作を志した頃からの私の欲求に沿ったやり方1999年に見つけました。 以降、自分なりの手法を通じてでペインティングの可能性を追求しています。