本作は 「ふたり」シリーズの第11作です。
2007年頃から始めたこの不定期連作シリーズは、人間関係の基本となる「ふたり」をさまざまなな光景で比喩的に表現しています。 作品によっては「ふたり」は人間の姿に限らない 象徴的な構造物でメタファー的に表現されることもあります。
本作「ver.5」は、老いた夫婦の "ふたり "です。
白日夢のような色合いの中で、沈む夕日を眺めるふたり。長い年月と積み重ねた想い。
「時間」そのものをじんわりと味わう境地とはどんなものだろうか?という藤本自身の問いかけでもあります。
この光景から何を想起するか、どういう思いに繋げるかは、鑑賞者の皆さんそれぞれの自由に委ねられています。
藤本は、皆さんの想像力、記憶、感情をのせてドライブをする「乗り物」として作品を提示します。
制作の流れとしては、日本画の大下図のようにモチーフの配置を主に記した原寸大の線画を、画面と別のトレーシングペーパーに作成します。そして塗り重ねる色のレイヤー構成をプランニングします。 線的にも色面的にもプランがある程度決まったら、トレーシングペーパー上の線画をパネル上に転写し、本画制作に入ります。
使用パネルは表裏両面貼り。画面、側面、裏面と全面に地塗り。画面背景色と同色が側面にも塗り重ねられています。 画面では、下塗りと木目を潰す削りによるプレパレーションの後、部分、ベタ合わせて20層以上、描写として塗りを重ねます。そして、水をかけながら耐水サンドペーパーでの研削を、完成画面が見つかるまで繰り返します。
作品裏面のスリットはパネル内通気ダクトですが、設置の際、ピン、フック類も引っ掛けられます。 また、削り出しによる平滑なマチエールなので、作品をふきん等で拭き掃除することもできます。
アクリル絵具の積層と研削で、絵面を描き出していくこと(個人的に「レイヤリング」とします。)は、非対象フリー絵画「Layers of Color」と変わらないので、本シリーズの作品においても、そのマチエールや発色感は一貫しています。
絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。 支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。 制作を志した頃からの私の欲求に沿ったやり方「レイヤリング」1999年に見つけました。 以降、この「レイヤリング」でペインティングの可能性を追求しています。