本作は 「ふたり」シリーズの第6作です。「ふたり」シリーズでは、「存在が2つ在る光景」を比喩的に表現しています。(作品によっては「存在2つ」を、人間ではない象徴的な構造物で表現しています。)本作「ver.6」は、”ふたり "の少年のシルエットが花畑に配されています。兄弟か友達かは特定しません。シルエットが醸し出すダークな感じと、血のような花畑の赤を対比させて、「痛み」や「ほろ苦い」感覚も含まれた、単に綺麗と言い切れない光景です。不穏さ、力、鮮やかさ、はかなさ、希望。。。時間の流れと絡んだ想いを、1 点の絵画の中に重層的に込めようとした作品です。この光景から何を想起するか、どういう思いに繋げるかは、鑑賞者の皆さんに委ねたいです。作者は、皆さんの想像力、記憶、感情をのせてドライブをする「乗り物」として作品を提示します。制作の流れとしては、日本画の大下図のようにモチーフの配置を主に記した原寸大の線画を、画面と別のトレーシングペーパーに作成します。そして塗り重ねる色のレイヤー構成をプランニングします。線的にも色面的にもプランがある程度決まったら、トレーシングペーパー上の線画をパネル上に転写し、本画制作に入ります。画面では、下塗りと木目を潰す削りによるプレパレーションの後、部分、ベタ合わせて20層以上、描写として塗りを重ねます。そして、水をかけながら耐水サンドペーパーでの研削を、完成画面が見つかるまで繰り返します。使用パネルは表裏両面貼り。画面、側面、裏面と全面に地塗り。画面背景色と同色が側面にも塗り重ねられています。削り出しによる平滑なマチエールなので、作品をふきん等で拭き掃除することもできます。アクリル絵具の積層と研削で、絵面を描き出していく手法は、非対象フリー絵画「Layers of Color」と変わりません。本シリーズの作品においても、そのマチエールや発色感は一貫しています。絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。私の欲求に沿ったやり方でペインティングの可能性を追求しています。