シリーズタイトルは沖縄の方言「チルダイ(沈滞)」を用いた作者造語です。重なり合うアクリル絵具の層の中にしか存在しない花を表現しています。”花の絵”。制作活動を開始した当初は、この「偉大なるベタ」なお題について、自分なりのまとまった動機付けがなかなか見つかりませんでした。 時おり植物をモチーフにした作品を制作したりして、技術的は可能であるとい うことは確認できていたのですが.....。そんな思いでいた2006年春頃、在住地沖縄の地元新聞を読んでいたら記事文中に、 「チルダイ(停滞)している。」という言葉を見つけました。聞けば「物事が滞っているような状態」を表す沖縄の方言とか。「チルダイ」の意味がわかった途端、瞬間接着剤でくっつけたように 「チルダイ+花=チルダイバナ(沈滞花)」というタイトルがパ ッと浮かび、「これで花の絵を造れる。」と思いました。物事の滞るようなネガティブな状態から、何か美しいポジティブなものを見つけていくようなイメージとも言えますし、制作において私は発掘作業のように、積層したアクリル絵具の分厚いレイヤー群の中に沈んでいるかたちや色を削り出しながら見つけていくので、二重の意味合いでしっくりきました。本作も、不定期展開してきたシリーズからの1点です。完成から15年以上の時間が経過していますが、作品の退色、変質もなく良好なコンディションをキープしています。使用パネルは表裏両面貼り。画面、側面、裏面と全面に地塗り。画面背景色と同色が側面にも塗り重ねられています。作品裏面のスリットはパネル内通気ダクトですが、設置の際、ピン、フック類も引っ掛けられます。また、削り出しによる平滑なマチエールなので、作品をふきん等で拭き掃除することもできます。アクリル絵具の積層と研削で絵面を描き出していく手法は、非対象フリー絵画「Layers of Color」と変わらないので、本シリーズの作品においても、そのマチエールや発色感は一貫しています。制作の流れとしては、日本画の大下図のような原寸大の線画を、トレーシングペーパーに作成します。同時に、並行して塗り重ねる色のレイヤー構成もプランニングしていきます。線的にも色面的にもプランがある程度決まったら、トレーシングペーパー上の線画をパネル上に転写し本画面の制作に入ります。本画面には下塗りと木目を潰す削りによるプレパレーションを施してから、筆の種類を使い分けていろんなタッチで積層します。部分・全面ベタ合わせて20層以上、描写としての塗りを重ねます。そして、水差しで画面に水をかけながら耐水サンドペーパーでの研削を完成画面が見つかるまで繰り返していきます。機械(ベルトサンダー)削りと、手削り、その併用など削り方も使い分けています
絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。1999年に制作を志した頃からの私の欲求に沿った手法を見つけ、ペインティングの可能性を追求しています。