2015年から始めた「Layers of Color」シリーズからは、具象的なモチーフの構造から解放されたところで、純粋視覚現象のような絵画を追求しています。
本作品は、2016年に入ってからの第13作、同シリーズ通算第22作です。
本作の特徴は、同シリーズで初めて「デフォルト画面」という初期レイヤーをまず描き重ねて、その画面から触発されるようにいつものスポンテニアスな、塗り、削り、画面決定をしたことです。
本作の少し前に制作した「1609」が、思っていたほどフリーな画面にならなかったこと(それはそれで一つの風景画にはなったんですが。)で学んだことは、「大きめの作品では、ただフリーに筆を運ぶだけでなく、デフォルト画面として何かしらの画像をある程度の厚みで仕込んでおいた方がいいものが出来そうだ。最終的な画面のパワーや密度も高まるのではないか。」という感覚でした。
その感覚を教訓にして本作で「デフォルト画面」を導入してみたわけです。
この作品の「デフォルト画面」は、近作「1606」の部分画像のプロジェクションを即興的な判断でトレース、変化、省略させながら、制作キャンバス上にモノクロ線画で書き移したものです。
その線画に沿ってアクリル絵具で描写し、ランダムな厚みを持たせました。
「デフォルト画面」が、通常の「デッサン」と違うのは、「その通りに進めることが目的ではない」ことです。
微妙な厚みが「単なる自分の手癖」を超えて画面に分布し、そのレイヤー構造が発火点になって、最終的な画面の強度、密度をあげるために機能しています。
結果、この「1613」は、それまでのシリーズ作品とは、また違った強度のある非対象絵画が作れたのではないかと思います。
キャンバスは表裏両面に入念な地塗りによるプレパレーションの後、画面側に部分、ベタ合わせて20層以上の描写としての塗りを重ねます。そして、水をかけながら耐水サンドペーパーで研削していきながら画面を造っていきます。
仮板の上で制作し、完成後は、清掃して乾燥させてから木枠に張るので、制作上、衛生上にも支障なく、マチエール特性や発色のクオリティもキープできていると思います。
画面は、削り出しているため平滑で、ふきんなどで拭き掃除もできます。
絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。
その支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。物理的な結晶としての絵画。
制作を志した頃からの、私の欲求に沿ったやり方を1999年に見つけました。
以来、「アクリル絵具の積層と研削」という一貫した技法・マチエールでペインティングの可能性を追求しています。