2015年から始めた「Layers of Color」シリーズからは、具象的なモチーフの構造から解放されたところで、純粋視覚現象のような絵画を追求しています。
本作品は、2016年に入ってからの第11作、同シリーズ通算第20作です。
前作「1610」と同じようなシルバー主体の色使いですが、本作では削りが全て終了した後に、カリグラフィックな黒い斑点のような形を、フリーな筆遣いで描き足した後、向きを決定して完成としました。
結果背景となる削り画面と、斑点群とが、絡み合うような、反発し合うような感じですが、こういう手法も本シリーズにおける試みの一例と言えます。
明確なテーマも、メッセージも、モチーフも、プランも無いところから、塗りや削りの工程が一つ終わるごとに、次の工程をジャッジしていき、やがて完成と思われる画面が(向きも含めて)決定されます。
キャンバスは表裏両面に入念な地塗りによるプレパレーションの後、画面側に部分、ベタ合わせて20層以上の描写としての塗りを重ねます。そして、水をかけながら耐水サンドペーパーで研削していきながら画面を造っていきます。
仮板の上で制作し、完成後は、清掃して乾燥させてから木枠に張るので、制作上、衛生上にも支障なく、マチエール特性や発色のクオリティもキープできていると思います。画面は、削り出しているため平滑で、ふきんなどで拭き掃除もできます。
絵画の特性の一つ、「重層的なマジック」を活かしきること。
その支持体上に絵具によってしか存在し得ない光景。物理的な結晶としての絵画。
制作を志した頃からの、私の欲求に沿ったやり方を1999年に見つけました。
以来、「アクリル絵具の積層と研削」という一貫した技法・マチエールでペインティングの可能性を追求しています。