初回購入時に5%OFF & 送料無料

FIRSTART5

2回目購入時に使える10%OFFクーポンを初回購入後発行!

  • INTERVIEW

【INTERVIEW】助けの手を「自己犠牲」にしないために、私たちには何ができるのか?:タイラクルカ個展「るてん」

2024/11/07
TRiCERA ART TRiCERA ART


9s Galleryでは、2024/11/15(金)から2024/11/24(日)まで、タイラクルカ「るてん」展を開催いたします。

今回のインタビューでは、展覧作品である”Fire”や、その背後にあるストーリー、そしてアーティストとしての新たな挑戦について語っていただきます。




-まず、今回の個展のテーマについて教えていただけますか?

今回の個展タイトルは「るてん」、漢字で「流転」と書きます。この言葉は、一つの状態にとどまらず、絶えず移り変わっていくことを意味します。「輪廻」とも言い換えられますね。
今回の出品作は、自分が描くものが日々進化していく様子や、その時々の視点から見える風景を描いた作品です。いつもその時読んでいた本や聴いていた音楽から着想して作品を描くことが多いんですが、今回は「流転」という言葉が由来する仏教をモチーフにしようと思っていて。仏教の成り立ちや釈迦の教えを布教するために語り継がれてきたエピソードって、実際に読んでみると話が結構ぶっ飛んでて面白いんですよ。
今回の個展でも、例えば「捨身飼虎図(しゃしんしこず)」という仏教画から着想を得た作品”Fire”を出品予定です。


「捨身飼虎」をモチーフに描いた作品”Fire”


《Fire》(2024)


「捨身飼虎図」は、ある国の王子(釈迦の前世とされています)が山に出かけ、飢えた虎の親子に偶然出会い、その親子に食べさせるために自分の身を捧げるという場面を描いたものです*。困難に陥った人々を見て、単に「かわいそう」と思うだけでなく、実際に行動を起こそうという教えを示したものと言われていて、その教え自体は素晴らしいなと思ったんです。
一方で、自己犠牲を美談として称えすぎることにも違和感があって。他者のために自分を削って行動を起こした人がいたとして、その人にも助けの手を伸ばす人が必要なんじゃないかと思うんです。
現代って、SNS上でもネガティブな事件ばかりが流れてくるし、社会的にも30年間不景気が続いていて、将来に希望を見出すことが難しい時代ですよね。そんな状況では、誰かを助ける人自身も、何かに苦しんでいる「飢えた虎」というケースが少なくないんじゃないかと思って。だからこそ、誰かの自己犠牲をただ賞賛するんじゃなくて、その姿を見た別の人がまた助けの手を差し伸べて……っていう、「良心の輪廻」みたいなものを探りたいという思いで、”Fire”を描き上げました。


*中国の敦煌石窟や、日本では法隆寺の国宝・玉虫厨子に描かれたものが著名


多義的に読み解ける作品を目指す



-”Fire”に描かれている犬は、他者のために自身を炎に投じる最中ですが、悲壮感はなく、むしろ普段通りのことをやっているかのような超然とした雰囲気を感じます。

そうですね、自己犠牲を称えることへの違和感から出発した作品なので、あえて犬は無表情にしています。そもそも、作品のテーマ自体は一作一作、古典や生活から得た発想と、自分の原体験を結びつけて掘り下げて考えているんですが、鑑賞者の方が自由に読み解ける画面を作りたいという思いが強くて。

作品の解釈を広げるために、なるべく一作ごとのテーマを絞って、描き込みすぎず、さらに明るい色調を使い……というような工夫を毎回心掛けています。


-今回の個展では、”Fire”以外にもさまざまなモチーフや技法で作品を制作予定だと伺っています。

実は、展示タイトルに「るてん」を選んだ理由には、アーティストとして次の展開を見せたいという思いもあって。活動初期からずっと犬を描いていて、それは今後も続けていきたいんですが、今後は人間とか馬とか、別のモチーフにも挑戦していきたいと考えています。






-犬以外のモチーフにも挑戦されたいとのことでしたが、実際に今回は老いた女性の肖像画も展示されますよね。

はい、この作品は、実は”Fire”の兄弟作品として描いたもので、女性の瞳の中に燃えている犬を描き込んでいます。

先ほども少し言及したのですが、現代は自分自身も飢えている中で、同じく苦しむ他者に何かを与えるのか、あるいは与えないのか、という選択肢を迫られている人がとても多いと思っていて。この作品に描いた女性は、私にとってそんな人々の象徴的な存在です。

実は、『チャーリーとチョコレート工場』に登場する主人公・チャーリーの祖母をモデルにしています。主人公の一家全体が困窮していて、さらに彼女をはじめ主人公の祖父母4人はほぼ寝たきりで、チャーリーの両親に介護してもらって暮らしている。そんな中でも、祖父母はチャーリーになるべく手を差し伸べるんですよね。板チョコ1枚を買うためのお金をなんとか捻出したりとか。

結果的に、チャーリーとその一家は運良くウォンカに救われるんですが、もしそうでなかった場合、じゃあそのおじいちゃんおばあちゃんを救うのは誰なんだろうっていうのをすごく考えさせられるんですよ。私にとって、「飢えた虎」という立場として真っ先に思いつくのが彼女なので、今作のモチーフに選びました。

人間のポートレートを発表するのは、活動初期以来でとても久しぶりなので緊張しますが、”Fire”とともに展示することで「飢えた虎」を救う良心の「流転」を表現できればと考えています。


-画面に小さな犬を散らすような表現も印象的です。

女性の顔の周りに白黒で描いた犬は、まだ火のついている灰をイメージしました。
画面内に小さな犬を散らすように描く表現自体は以前から取り入れています。犬自身の視点と、犬を外から見た視点とを画面の中に描きこみたいと思って始めたのですが、今回の「犬」は”Fire”という別作品にいるような形ですね。

犬それ自体の存在が別画面へと展開していくという意味では、展示全体のテーマである「流転」に結びついていると言えるかもしれません。

あと、今後の挑戦という意味では、メディウムも油絵にこだわらず、いろいろやってみたいですね。例えば、絶えず変化する「るてん」を表現するには、粘土とか立体もありかもしれないな、とかも思ったりしてて。実際に展示作品になるかはわからないですけど。
制作の中で自分の固定観念を壊していきたいですし、さらに作品を観た方々がご自身の解釈で作品の世界をどんどん広げていっていただければいいなと考えています。

開催概要


タイラクルカ個展《るてん》
開催日程:2024/11/15(金)から 2024/11/24(日)
営業時間: 12:00 〜 19:00
※ オープニングパーティー:11/15(金)18:00-20:00
 どなたでもご参加いただけます。
※ 休館日:11/18(月)

会場:9s Gallery by TRiCERA
〒106-0031 東京都港区西麻布4-2-4 The Wall 3F
アクセス:東京メトロ日比谷線 六本木駅 徒歩10分・広尾駅 徒歩10分
東京メトロ千代田線 乃木坂駅 徒歩10分
連絡先:​​03-5422-8370

map

本展に関するお問い合わせはこちら





TRiCERA ART

著者

TRiCERA ART

現代アートの歴史・楽しみ方・各アートジャンルの解説など、役に立つ情報を芸術大学卒業のキュレーターが執筆しています。TRiCERA ARTは世界126カ国の現代アートを掲載しているマーケットプレイスです。トップページはこちら→https://www.tricera.net