ヴィヴィッドな色彩で描き出された、今にも動き出しそうなギタリストの指。
《Mixed-Gt.-》2024(©MITSUKI NAKA)
音楽をコミュニケーションの原点と位置付け、楽器や演者を描くナカミツキ。
本作は、100人10 2023/2024での入選作です。
9s Galleryでは、ナカミツキをはじめ、100人10で注目を集めた新進気鋭のアーティスト5名のグループ展“UPDRAFT” Rising Artists from 100人10 2023/24を2024年5月18日(土)~6月1日(土) にかけて開催します。
本記事では、ナカミツキのアートとの出会いやコンセプトに迫ったインタビューを公開いたします。
1997年兵庫県生まれ、2020年京都教育大学教育学部美術領域専攻卒業。
2023年 TOKYO MIDTOWN AWARD 2023 優秀賞受賞。
身体から沸き起こる衝動性と現代の視覚表現を考察し、現代の音楽シーンや配信サブスクリプションサービスから得た膨大な量の音楽データや記録をもとに、最もポピュラーな電子端末iPhoneとアプリケーションで仮想キャンバスに描画し、その下絵をもとに出力とアクリル絵の具で描く手法を用いる。
闘病生活でのアートとの出会い
-まずはナカミツキさんがアーティストとしての道を歩み始めたきっかけ、そしてその背景について教えてください。
私にとってのアートとの出会いは、病気で半身麻痺となって過ごしていた10代前半の頃、片手で絵日記を描き始めたのがきっかけです。
元々はジャズダンスや演劇を習いに行ったり、活発で体を動かすのが好きなタイプだったんです。
でも、入院生活で、体も自由に動かせないという状況になってしまって。
入院が長引くにつれて、人と交流する機会も少なくなるし、誰かに介助されないと生きていけないという状況も辛くて、人間不信に陥って鬱屈した生活を送っていました。
そんな中で、自分が生きた証を残したいと思って、iPhoneで絵を描くようになりました。
なので、私にとっては、デジタル端末上のバーチャルなキャンバスに指で描いていくのが、紙に向かって筆で描くよりもネイティブな手法です。現在も、下絵はデジタル機器で描いています。
-最初はiPhoneで描き始めた中で、現在のようなアクリルや油彩での作品を制作され始めたきっかけはありますか?
絵を描くようになってから、しばらくはSNS上でデジタル作品を発表していました。
そのうちに回復して身体が動くようになり、大学に入学するタイミングで本格的に作家活動を始めることにしたのをきっかけにキャンバス作品に挑戦し始めました。
デジタル作品は、その時々の瞬間を捉えるのには向いていますが、アナログでは筆致が重なっていって、身体的な動きを堆積させられるという魅力があると思います。
アナログでの技法も色々なものを試していて、最初はシルクスクリーンを手がけていましたが、ここ数年はアクリル絵具やメディウムをメインで使っています。
最近は、より後世に残る画材として油彩も取り入れ始めました。
-ナカさんは絵画に留まらず、映像やインスタレーションも手がけられています。
自分にとっての制作のゴールは、作品を作り出すことそのものというよりは、鑑賞者が作品を通じて対話することだと思っています。なので、1つのスタイルに固執することはありません。
ひょっとしたら、こうやって色々な表現に挑戦する姿勢は教育大学で培ったものかもしれません。
教育大学って、それぞれ国語とか数学とか、違う専攻のクラスメイトが集まっていて、講義のバリエーションも幅広くて。
その中で、自分の興味に沿って情報をリサーチして掴みとっていく必要があるので、今のようなスタイルを得られた気がします。
音楽:言葉が生まれる前のコミュニケーション
-ナカさんの作品に通底するテーマは何ですか?
一言で要約すると、コミュニケーションです。
10代の入院生活では、コミュニケーションの機会が持てなかったというコンプレックスがずっとあって、自然とコミュニケーションについて考えることが多くなりました。
大学進学後は、教育と人類学をバックグラウンドに、音楽こそが人間同士のコミュニケーションの根幹にあるんじゃないかというテーマで研究をしていたんです。
文字や言葉が発達する以前から、人間の文化には音楽があった。
なので、音楽をモチーフにすることで、コミュニケーションの原点に迫ることができるのでは? と考え、ライヴハウスでの演奏をもとにした絵画を制作しはじめました。
さらに、大学を卒業したタイミングでちょうどコロナ禍になったのも、コミュニケーションをメインテーマに据えた理由です。
私は10代の頃に個人として身体の不自由さやコミュニケーション不足を感じていたけれど、2020年にはそれが社会全体の問題として共有されるようになりました。
いずれも、肉体的なコミュニケーションの欠けた部分を補うために、デジタル技術が重要な役割を果たすのも共通点です。
たとえば、私の場合はiPadでの制作やSNSでの発表、コロナ禍の際はオンライン会議ツールが挙げられるでしょう。
そこから、テクノロジーがもたらすコミュニケーションの様式や人々の行動の変化にも興味を持つようになりました。
制作風景(©MITSUKI NAKA)
私自身の制作も、コロナ禍によって大きな変化がありました。
元々、ライヴハウスで演奏を見て聴きながら描くというスタイルだったのですが、コロナ禍では音源だけを聴く方法に切り替えざるを得なくて。
演者を見て生の音を聴くのと、音源だけ聴くのは経験としてまったく違うし、コミュニケーションの面では前者より後者の方が何かが喪失されている状態だと思うんです。
一方で、インプットするものが純粋に音声情報だけになったことで、自分の想像力で演者の姿を補完するうちに、制作の中で自分の想像力が占める割合が増していくという面もありました。
だからこそ、絵具を使ってキャンバス上に自分の身体性を残したくなったのではないかと考えています。
現在はライヴも開催されるようになって、元々よく聴いていたジャズだけではなくクラシックからロックなどモチーフにするジャンルも広がってきました。
ずっと音楽を描き続けてきた姿を見てくださっていた方から「ライヴに来て欲しい」とお声がけいただくことも多くなって、これも作品がもたらすコミュニケーションによって広がった輪だなと感じています。
デジタル技術で自身の可能性を拡張する
《Searching for Survival》2023(©MITSUKI NAKA)
-5月のグループ展での出品作品についても教えてください。
100人10 2023/2024に出品した《Mixed-Gt.-》と同じシリーズで、音楽を演奏する人々の動きに着目した平面作品を展示する予定です。
マチエールにこだわった作品で、メディウム剤で作った下地の上にインク出力をして、一度絵具を載せて、もう一度インク出力して……と、アナログと機械を組み合わせています。
機械での印刷で起きるインクのずれやエラーって、偶発的なもので、自分の中からは絶対出てこない表現なので、作品に取り入れたいと考えてこの方法を選びました。
機械にせよiPhoneにせよ、デジタル技術を利用することは自分にとって身体を拡張させる感覚に近いんです。生身の自分だけではできない可能性や新しい表現を取り込む手段というか。
TOKYO MIDTOWN AWARD 2023優秀賞受賞作品《タイパする輪郭線》2023(©MITSUKI NAKA)
-最後に、これからの活動のビジョンについて教えてください。
今後も引き続き、絵画に限らず映像やインスタレーションなど、新たな表現方法を探求することで、より深いコミュニケーションを鑑賞者間に引き起こせるような作品制作を目指していきたいと思っています。
特に、コロナを経て人々の日常的な行動がどう変化したのかには強い興味を持っていて、昨年制作し、TOKYO MIDTOWN AWARDで受賞したインスタレーション作品《タイパする輪郭線》のテーマはより深めていきたいです。
グループ展概要
《 “UPDRAFT” Rising Artist from 100人10 2023/24》
開催日程:2024/5/18(土)から 2024/6/1(土)
営業時間: 12:00 〜 19:00
※ オープニングパーティー(招待制):5/17(金)18:00-20:00
※ 休館日:日曜日、月曜日
会場:9s Gallery by TRiCERA
〒106-0031 東京都港区西麻布4-2-4 The Wall 3F
アクセス:東京メトロ日比谷線 六本木駅 徒歩10分・広尾駅 徒歩10分
東京メトロ千代田線 乃木坂駅 徒歩10分
連絡先:03-5422-8370