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【INTERVIEW】渡邉城大:日本漫画の「線と余白の美」をアートに

2024/03/21
TRiCERA ART TRiCERA ART

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4月13日〜20日に9s Galleryで開催される3人展『春があなたと出会わせる』に参加するアーティスト、渡邉城大
日本漫画をアートに落とし込む実践を続けるアーティストです。展覧会では連作《JD-girl》を発表。

本記事では、漫画家アシスタントを経てアーティストになるまでの過程と、日本漫画への想いを中心にインタビューしました。

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1983年愛媛県出身。
漫画家のアシスタントを経て、日本漫画の技法による絵画の制作と、登山による星空を主とした自然写真の撮影を行う。



漫画家を経てアートの世界へ


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《JD-girl_009》

-まずはアーティストとしての活動を始めるまでの過程を教えてください。


最初は漫画家を目指していたんです。小学校1年生の頃、『ドラゴンボール』のアニメを観て、どうやら原作の漫画もあるらしいぞと週刊少年ジャンプを買ったんですよ。
それがきっかけで、漫画家を目指すようになって。

元々絵を描くのは好きで、昆虫図鑑の絵を模写したり、テレビで『ボブ・ロスの絵画教室』を観たりして、風景画家への憧れはありました。
そんなある日、漫画に出会い、ストーリーも考えて絵も描く漫画家って、絵を描く職業の中でも一番すごいんじゃないかと感動したんですよ。

その後、高校・大学では部活に没頭して漫画から離れた時期もあったんですが、大学で部活を引退してから改めて漫画執筆に本腰を入れるようになりました。
大学卒業後は漫画の専門学校に通いつつ、週刊少年ジャンプの担当がついて。その担当者に声をかけられて漫画家のアシスタントを始め、10年ほど活動していました。

-漫画の世界からアートを始めたきっかけはなんですか?


アシスタントを続けつつ、連載を目指してネームを描いていたんですが、3年目くらいに自分は商業誌での連載には向いていないなと気づいたんです。
漫画制作の現場って、タイトな締切に合わせて原稿を完成させなければいけない環境なので、100%納得できる絵を毎回描くのは物理的に不可能なんです。
漫画をやる限り、生涯1枚も自分が満足できる絵は生み出せないんじゃないかと思い至ってしまって。


なので、アシスタント3~4年目には、自分の漫画を描くのは辞めて、代わりに山に登っては星空を撮影することにのめりこんでいました。
綺麗に星空を撮ろうとすると、方角や月齢などを考慮して、細かく計画を立てて登山しなきゃいけないんです。
なので、自分が狙った通りの写真を撮影できた時の感動がものすごく大きくて。
それが風景画家になりたかった幼少期の思いとリンクし、また、その工程の旅や冒険は自分自身が漫画の主人公になったような感覚で、僕が本当にやりたかったことはこれだと思いました。

仕事以外で絵を描くことがなくなって数年が経ち、ふと、やっぱりまったく絵を描かない人生というのは考えられないなと思いました。
せっかくなら10年間以上描いてきた漫画の技術を活かしたいし、そうでなければ自分が絵を描く意味がないと思って、アートの歴史を参照しつつ、漫画をベースに新しいアートの文脈を作れないかと試行錯誤を始めたのがアーティストになったきっかけです。


「現代浮世絵」から新しい表現を生み出す

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《JD-girl_hoodie-01》

-渡邉さんは「日本漫画の技法で現代を描くこと」を「現代浮世絵」と定義づけられていますね。


「漫画」という言葉は、江戸時代に作家の山東京伝や浮世絵師の葛飾北斎が使い始めたとされています。
特に北斎は『北斎漫画』という本を15巻ほど出していて、まさに漫画というジャンルの草分け的存在。
なので、漫画そのものが浮世絵から進化したものだと考えています。

浮世絵は、江戸時代の人々が当時の画材で当時の様子を描いたものなので、「現代浮世絵」は浮世絵から進化した漫画を使って今の時代を描くことだと位置付けています。
なので、これまでに美人画をテーマにした《JD-girl》シリーズや、役者絵にインスパイアされて映画を題材にしたシリーズを手掛けてきました。

-渡邉さんが漫画に感じる魅力はなんですか?


線と余白の美や、白黒2色のみで人を惹きつける画面構成など、独自のスタイルを進化させてきた点でしょうか。

日本の漫画は、アメリカン・コミック(アメコミ)やバンド・デシネ(BD)*と並んで世界の3大コミックと呼ばれています。
でも、自分は日本漫画ってアメコミやBDとは一線を画していると思うんですよ。
アメコミとBDは基本的にフルカラーで横書きですが、日本漫画は白黒メインで縦書き。白黒のみでダイナミックな画面を描こうとすると、線の表現を突き詰めていく他ない。
きっと、日本漫画が白黒メインなのは、戦後の物資がない時代の貴重な娯楽として発展したという背景が影響していると思うんですが、そうした制約の中で独自の表現を発展させた点は漫画の一番の魅力だと思っています。

だからこそ、日本漫画の技法を使えば新しいアートの表現を生み出せるんじゃないかと思っていますし、それこそが自分が到達したい目標ですね。

*バンド・デシネ:フランス、ベルギーなどで描かれるコミック。エルジェ『タンタンの冒険』や、メビウス、エンキ・ビラルらの作品が有名。


《JD-girl》:漫画の「線と余白の美」を追求

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《JD-girl_hoodie-02》

-今回のグループ展で出品する《JD-girl》のテーマについて教えてください。


《JD-girl》は浮世絵の美人画をテーマに、漫画のヒロインをイメージした女性を描いた作品です。
漫画では、キャラクター設定をもとに、「このキャラはこう動くだろう」とストーリーが展開していくような作り方をするケースも多いと思います。
《JD-girl》も同様に、まずは人物設定を決めて、そこからイメージされるポーズや表情を描いています。

-白黒+1色の色彩構成も印象的です。


漫画のスクリーントーンのように、黒をアミ点のように配置して陰影を表現しています。
スクリーントーンは白黒の表現を成立させる上で、日本漫画の技法としては不可欠ですし、自分自身もとても好きな表現です。

基本的に手描きで、ドットの表現に関しては、スクリーントーンをシルクスクリーンで製版したオリジナルの画材である”シルクスクリーントーン”で漫画の作画技法を再現しています。
「全部シルクスクリーンで作ったエディション作品だと思った」というコメントをいただくことも多いんですが、そもそも漫画自体が印刷を前提とした作画をしているので、「仕上がりが印刷のように見える」というのは意図的にやっています。
余計なマチエールをなくしフラットにすることで、線と余白の意味が強調されると考えています。

さらに《JD-girl》では、背景の余白に当たる部分に色を用いることで、色彩心理学を応用して、鑑賞者がJD-girlの心情を想像する手掛かりになる様にしています。
なので基本的に、描かれている人物の表情や感情から外れた色は使わないようにしているんですが、いくつかカラーバリエーションを描いて色味が与える印象を確かめたりしています。

-紙ではなくキャンバスが支持体ですが、制作の上で感じられている違いはありますか?


キャンバスは紙よりサイズを大きくできる点が一番違いますね。
紙の漫画って基本、顔から20~30cmの距離で見るものじゃないですか。
なので、個人的には紙を支持体にする時は、漫画原稿のB4サイズ、または見開きのB3サイズの規格をきっちり守りたいと思っています。

一方で、キャンバスは壁にかけて、数m離れて観るのがデフォルトです。
なので、紙よりはるかに大きいサイズでの作品が作れるメリットがあります。
ただ、キャンバス作品を描く際は、ある程度離れても絵柄を認識できるよう、描線の太さやデフォルメの方法は意識的に変えています。

-シリーズには複数の《JD-girl》が登場していますね。


そうですね、アシスタント時代、担当さんから「とにかくヒロインを可愛く描いてくれ」と求められることが多かったんですけど、可愛さって一つじゃないので。
ネームに行き詰まるたびに、「どう描けば可愛くなるのか」を考えていたんです。
なので、JD-girlもいろんな可愛さを持たせたいと思っていて、アシスタント時代の研究成果を発揮して何人もバリエーションを描いています。

-グループ展で作品を鑑賞される方に向けたメッセージはありますか?


メッセージとは少し違うんですが、作品を見た方が「ぱっと見かわいい女性のイラストだな」と思って通り過ぎるのではなく、アートとして見てもらえるように制作するのはいつも意識しているポイントです。
ステートメントやコンセプトを知った上で、線や余白、色の意味、そこから作品の奥行きを想像していただけたらと思います。

究極的には、やっぱり線や余白の表現を掘り下げたいと思っていて。
《JD-girl》はキャンバスでの初シリーズ作品なので、かなり要素を削ぎ落としたシンプルな画面にしています。
ですが、線や余白に込めた意味は、背景などの他の要素との対比によってより明確になるので、ゆくゆくはそういう作品も作ります。
今後制作していくシリーズでは浮世絵の風俗画をモチーフにした表現にもトライするので、《JD-girl》が気に入った方には引き続き自分の活動を観ていてほしいです。



グループ展概要

春があなたと出会わせる
個展開催日程:2024/4/13(土)から 2024/4/20(土)
営業時間:12:00 - 20:00
※ オープニングパーティー:4/13(土)18:00-20:00
※ 最終日 17:00 CLOSE
※ 休館日:4/14(日)、15(月)

会場:9s Gallery by TRiCERA
〒106-0031 東京都港区西麻布4-2-4 The Wall 3F
アクセス:東京メトロ日比谷線 六本木駅 徒歩10分・広尾駅 徒歩10分
東京メトロ千代田線 乃木坂駅 徒歩10分
連絡先:​​03-5422-8370

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展示会に関するお問い合わせはこちらから



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著者

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現代アートの歴史・楽しみ方・各アートジャンルの解説など、役に立つ情報を芸術大学卒業のキュレーターが執筆しています。TRiCERA ARTは世界126カ国の現代アートを掲載しているマーケットプレイスです。トップページはこちら→https://www.tricera.net