『命の存在』を描き出すことを目指し、さまざまな色や線が重なり合う作品を描くアーティスト、ayaka nakamura。
鮮やかな色や素材が互いに響き合う生命力にあふれた画面は、観る者の足を止め、じっくりと魅入らせる魅力に溢れています。
2023年4月にもART CLiP記事インタビューにてコンセプトについて語ってくださったnakamuraさん。
今回は12月1日(金)より9s Galleryで開催予定の個展『Like a star』を中心に、作品や制作観を語っていただきます。
"Like a star", 2023, 65 x 91cm, ¥396,000 (税込)
偶然が重なった奇跡の一瞬を描く
-nakamuraさんは幾層にも重ねられた線や色の作品が印象的です。どのようなコンセプトで作品を制作されていますか?
何気なく目にする風景から、「命の存在」を描き出すことを目指しています。
最初は風景そのものを描いていたのですが、段々と風景を構成しているさまざまな命のエネルギー自体を表現したいと考えるようになって。
例えば、私の作品では何度も絵具を塗り重ねることが多いのですが、一度塗った絵具が塗りつぶされて完全に隠れてしまったとしても、その絵具の盛り上がった部分はキャンバスにそのまま残って、重ねられる層に影響を残し続けますよね。
風景も、同じようにたくさんの小さな命が連なって、互いに影響を与えながら成り立つものだと思うんです。
しかも、その中のどれかひとつの命が抜けたら途端に違う風景に変わるわけで、一瞬一瞬がたった一度きりの奇跡的な瞬間であることも伝えたいですね。
"Calling wind", 2023, 61 x 90cm, ¥418,000 (税込)
-nakamuraさんの作品は、絵具の質感や表現が多彩で思わず足を止めてしまう魅力があると思います。じっくりと見入ってしまうというか。
作品の存在は「観る人」がいることで成立すると思っているので、「観る人」が「自分も作品が表現している風景を織りなす命のひとつなんだ」と感じられるような表現を目指しています。
-nakamuraさんが描く「風景」には具体的なモチーフはありますか?
日常や旅先で出会った風景や記憶から着想を得ますが、描いていくうちに過去と今、そして未来のものへ混ざっていくので、具体的な場所などはありません。
作品は見る人の鏡だと思っており、作品を見ることで自分を知るきっかけになると思っています。
作品を見た人の記憶や体験に繋がってほしいので、「これを描いている」と限定していません。
私自身、久しぶりに作品を見ると何を元に描いたか覚えていないのですが、その時作品から見えるものや感じるものが大切だと感じています。
見る度に見方が変わるような、一緒に生きていけるような作品を作りたいと思っています。
"Like a blue on that day", 2023, 25 x 25cm, ¥209,000 (税込)
あえてコントロールできない部分を取り入れる
-nakamuraさんの作品は1枚の完成までにはどれくらいかかるのでしょうか?
作品によって重ねる層の数はまったく違うので一概には言えないですが、おおむね1ヶ月程度ですね。最初に勢いをつけて8割を描き上げ、その後2割を数週間かけて微調整していくという進め方です。その最初の勢いのために自分自身のテンションを上げていく必要があるので、「今日は描けないな」と思ったら思い切って休んだりしています。
-nakamuraさんの作品は、絵具が盛り上がっていたり、ぼかされていたりと多彩な表現も魅力的です。制作にはどのような道具を使われているのですか?
基本的には筆やローラー、パレットナイフなどですね。あとは作品を平らな面に置いて、多めの水と絵具を混ぜることで水彩画のような滲みを表現しています。他には、ケーキのクリームを絞るみたいに、細い口径のチューブを使って絵具を押し出したり。
"Way maker", 2023, 48 x 62 cm, ¥286,000 (税込)
描く中で、自分でコントロールできる表現だけではなく、コントロールできない表現を取り入れたいと思っています。「風景」はたくさんの偶然が積み重なって形成されているものでもあるので。そのために、偶然性のある滲みやチューブの痕のようなものを作品にはあえて残したいんです。
12月開催の個展『Like a star』
-12月1日から開催する『Like a star』では、新作を10点展示いただく予定です。『Like a star』はメイン作品のタイトルでもあるんですよね?
"Like a star"(部分), 2023, 65 x 91cm, ¥396,000 (税込)
はい、『Like a star』は展示の時期がクリスマス前ということもあって、冬の澄んだ空にチラチラ光る「星」の瞬きを捉えたいと思い描きました。
あとは、『Calling wind』も今回の展示用の作品群ではかなり最初の段階で描いた作品の一つですね。両方とも、私の中では新しい表現をつかめたなと感じています。
"Calling wind"(detail), 2023, 61 x 90cm, ¥418,000 (税込)
-新しい表現とはどのようなものですか?
以前までは、キャンバスの全面に絵具を塗り重ねて分厚い層を作る作品が多かったのですが、個人的には色の透明度が下がってしまうのが課題だったんです。
ただ、この2作品に関しては一発で高い透明度の色を出して、なおかつ筆致を残すという表現ができました。
ちなみに他の作品も、『Like a star』と『Calling wind』を制作した後、この2点とバランスが合うように制作しています。
"Sounds of Earth #", 2023, 48 x 62 cm, ¥275,000 (税込)
-今回展示される作品は金色に輝く表現も印象的です。こうした金属のような表現はどのように描かれているのですか?
作品によってまちまちですが、金色の塗料を面として塗ったり、金粉を蒔いたり、いろんな方法を取り入れています。
-今回の新作はどのような方に届けたいとお考えですか?
12月はクリスマスもありますが、1年の終わりとして自分を振り返ったり、大切な人にお礼するタイミングだと思っています。
今回は1辺15cmから90cmまでと幅広いサイズで新作を作ったので、大切な人へ、または自分に向けてのギフトとして作品を手に取っていただけたら嬉しいですね。
また、新しい年の希望を観る方に伝えられるような作品になっていたらと思っています。
"Garden of the heart ", 2023, 15 x 15 cm, ¥121,000 (税込)
12/1(金) ~ 16(土)開催の個展「Like a star」について
9s Galleryでは、2023/12/1(金)から 2023/12/16(土)まで、ayaka nakamura個展「Like a star」展を開催いたします。
たくさんの要素が互いに関わり合って構築された作品は、世界に溢れる命の多様さ、そしてちっぽけな存在である私たちもその一部であるということを鑑賞者に思い起こさせるでしょう。本展のために制作された『Like a star』『Calling Wind』を中心とした、星のように散りばめられた作品群を会場にてぜひご高覧ください。