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  • EXHIBITION

【インタビュー】絵画に命を吹き込むアーティスト・あおいけいが問う「世界」と「自分」の関係性

2023/10/23
TRiCERA ART TRiCERA ART

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《命や空間が吹き込まれた写実と、写実に向き合ったことにより見つけたリアルと美。》というコンセプトで写実画をメインに制作するアーティスト、あおいけい。

TRiCERAにて開催中の個展「Entanglement of Things」では、具象と抽象を融合させた作品など、新たな作風への挑戦を見せています。彼女はどのような思考を辿り、新たな表現へと辿り着いたのでしょうか。

この記事では、あおいけいへのインタビューを通じ、本展の展示作品や今後の制作について迫ります。





あおいけいとは


あおいけいは岐阜県生まれのアーティスト。

独学で絵画を学び、キャリア初期はリアルな写実画を描き、第4回ホキ美術館大賞に入選。写実を突き詰める中で、「自然」、そして「自然」がもつれあって形作られる「自分」をまなざし、さらに「自己」と「自我」への思索を深めるようになった。



そうしたあおい独自の世界観の深まりに伴い、近年はマーブル模様に代表されるような抽象と具象とを組み合わせた作品を描くなど、意欲的な制作を続けている。



画家として、映像の本性を絵に表す挑戦:『川』


──個展「Entanglement of Things」では、『川』や『雨上がり』など、風景とマーブルを組み合わせた作品を4点制作されています。このシリーズはモデルとなった土地があるのですか?

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展示風景

 この4点は、それぞれ私が住んでいる岐阜県で美しいと感じた景色を描いています。内陸の県に生まれ育ったからか、海より川に惹かれるという好みもありますね。

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『川』

──『川』の水面のきらきらした光からは、あおいさんの写実技術の高さが感じ取れます。さらに印象的なのは、画面の右上や左下に現れたカラフルなマーブル模様。こうした画面構成にされたのはなぜですか?

 この作品を描いたのは、世界が目に入って映像になった時、あまりにもその映像が整いすぎていると感じたのがきっかけです。本来、光は様々な色に分かれるはずなのに、目に入った瞬間には整えられて、ノイズが無い映像として知覚されますよね。

 ですが、画家は映像の本性……例えば、海に漏れ出たオイルや虹のような、ある条件を満たすと現れてくる光の乱反射を見つけるのに長けていると思うんです。私自身もそうだし、19世紀の印象派も同じように、光を様々な色で表現したわけですよね。

 なので、この作品では、そうした光の彩りを抽出して描き出すことに挑戦しました。裏側の世界をマーブルで表現しているというイメージもあります。

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『川』(部分)

──『川』のマーブル技法は、どのように描かれているのですか?

 作品を制作する際、最初にメディウム*を混ぜたアクリル絵具を広げてマーブル模様を作っています。その上から油彩で風景部分を描くという流れですね。よく、油彩で風景画を仕上げた上にマーブルを足していると思われることも多いので、ギャラリーでお客様に説明するとびっくりされます。
* アクリル絵具に混ぜて使うペースト上の添加剤。絵具のツヤを出したり、盛り上げたりする際に使う。

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『雨上がり』

──このシリーズでは、最初に『川』を制作し、その後『晴天』『雨上がり』『曇天』を制作されたかと存じます。4点を描き上げる中で、制作に変化はありましたか?

 『川』と残りの3点の制作期間には少し期間が空いているので、アプローチは少しずつ変化していると思います。
 例えば、『川』は水面からの光の乱反射をマーブルで表現しましたが、『雨上がり』は、「この景色の四角で区切ったある部分に何が隠れているか」をテーマに、その部分から抽出された色のみを使ってマーブルを描いています。さらに、『雨上がり』では画面の下部全てをマーブルで表現した点も、個人的には挑戦だったと感じています。



「自我」の外に広がる「自然」を捉える:『Yggdrasill』



『Yggdrasill』

──本展では、9点の連作『Yggdrasill』も展示されていますね。この作品のコンセプトも教えてください。

 『Yggdrasill』は、世界の複雑性を描きたいと考えて制作しました。タイトルの由来となった「ユグドラシル」は、北欧神話に登場する、9つの世界を内包する世界樹です。
 この作品は3層構造になっており、まずは漆黒の”無”、宇宙が織りなす規則を表す”美濃和紙”、カオスを示すアクリル絵具のマーブル模様です。

──色々な素材を用いられていると思いますが、制作方法はどのような手順で実施したのですか?

 パネルのベースは黒で塗り、メディウムを使って美濃和紙を埋め込んでいます。コラージュのような感じですね。

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『Yggdrasill』(部分)

──美濃和紙を使用されているのはなぜですか?

 祖父の友人が美濃和紙を使用して提灯を作っていたんです。私の出身地である岐阜の伝統工芸をアートに落とし込みたいという思いがあり、その方に相談して美濃和紙そのものから制作しました。

──美濃和紙からご自身で制作されたのですね。

 はい。簡単に説明すると、美濃和紙は原料のコウゾを液状にしたものを濾して制作します。さらに、今回は美濃和紙にオリジナルの柄を付けました。 漉いた紙の上に文様の型を載せ、その上に水をかけると型がある部分以外は薄くなるので、柄が出てくるんです。この柄は、自然が生み出す模様を作りたいと感じて幾何学模様にしました。



シンメトリカルな美しさと醜さが両立したモチーフに惹かれる:『花と蛾』


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『花と蛾』


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『Leftover』

──今回の個展では『花と蛾』、昨年TRiCERAで開催した個展「覗く」では鈴虫の羽をモチーフにした『LEFTOVER』を描いていらっしゃいますが、あおいさんの中で虫というモチーフにこだわりがあるのでしょうか?

 もともと、地味な虫に惹かれがちなんです。 絵画は美しいだけでも醜いだけでも面白くなく、2つを陰陽のように共存させる必要があると思っています。その点、 虫は自然の規則を体現したシンメトリカルなデザインで、本来美しいにも関わらず、醜さも併せ持つ点に魅力を感じていますね。



励まされて一歩を踏み出す:「Still Got My Soul」


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『Still Got My Soul』

──今回展示する作品で、一番思い入れがある作品はありますか?

 「Still got my soul」でしょうか。私は生来自分に自信がなく、最初の個展は2021年に開きましたが、それも周りの方にずっと励ましてもらって実現しました。なので、私は他者に支えられて生きてきたと思っています。

 反面、私は幼少期に上手くアイデンティティを築けなかったようで、先日《愛着障害》という診断を受けて「あなたには自分がない」と分析されました。自分ではあまり強い意思を持てないというか、すぐ周りの自然や他者と融合してしまうようなんですね。

 「Still got my soul」では、2人の自分を描いています。左側は自分だけれど自分ではない、他者が憑依した自分。一方、右は本当の自分です。 他者に励まされて次の一歩を踏み出す瞬間を描き出しました。



更なる表現を追求したい


──今回は具象と抽象の融合を目指されたかと思いますが、今後の制作に関するヴィジョンはありますか?

 今回は『川』シリーズでマーブルを作品に取り入れる実験をしましたが、これにとどまらず様々な表現を追求していきたいです。制作を通じて、「自然」と「自分」の関係、そして「自分」の中にある、自然から影響を受けて形成された「自己」とコアである「自我」への理解を深められればと思っています。



10/28(土)まで開催中の個展「Entanglement of Things」


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9s Galleryでは、2023/10/20(金)から 2023/10/28(土)まで、「Entanglement of Things」展を開催中。



本展は、あおいけいが「自然」、そして「自然」がもつれあって形作られる「自分」をまなざし、さらに「自己」と「自我」への思索を深めた道のりで生み出された作品群を展示いたします。「自然」を徹底的に観察した作品から、「自分」の核となる「自我」に向き合う過程で描かれた作品まで、多様なテーマが並びます。

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著者

TRiCERA ART

現代アートの歴史・楽しみ方・各アートジャンルの解説など、役に立つ情報を芸術大学卒業のキュレーターが執筆しています。TRiCERA ARTは世界126カ国の現代アートを掲載しているマーケットプレイスです。トップページはこちら→https://www.tricera.net