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まるで本物と見紛うかのようなハイパーリアルな表現、どうやって作ったのか見当もつかない作品。「超絶技巧」と称されるアート作品は、そのような人間業の限界に挑んだものを指します。日本でもしばしば「超絶技巧」と題された展覧会が開催され、話題を呼んでいます。今回は、古今東西の超絶技巧作家たちの世界観に浸ってみましょう。
2000年に東京藝術大学の修士課程を修了した池田学は、日本・アメリカ・カナダなどを拠点に、丸ペンとカラーインクというシンプルな画材で綿密に描かれた絵画を描き続けています。池田が初めて日本をテーマに描いた《興亡史》(2006)では、趣味のロッククライミングから着想を得たという多彩な形状の城や壁の傾斜、桜、そして人々の姿などが縦横無尽に積み重なり、1枚の絵に過去から現在までの複数のタイムラインが共存するような壮大な絵画を発表しています。下描きはせず、常に全体を見ながらも緻密に描くため、1日8時間みっちり描いても10cm四方ほどだと言います。池田学《興亡史》2006年|紙にペン・インク、200 x 200 cm
チャック・クロース(Chuck Close, 1940 - 2021)は、アメリカで興った「フォトリアリズム」の代表的な画家です。ワシントンやイェール大学で学び、巨大なキャンバスにポートレートを描くシリーズで肖像画の歴史に名を残しました。初期は写真を写すようなフォトリアリズムの手法を中心として制作しましたが、のちにデジタル画像のピクセルのようなものや印象主義風などの様々な画風で描くことも実験しています。写真を碁盤の目状に切り分けてモザイク画のようにキャンバスに転写する技法、指で描くフィンガーペインティングなど様々な技法を開発しました。特にエアブラシを使った技法は、のちのインクジェットプリンタ開発のヒントとなるなど、絵画史のみならず印刷技術史にも貢献した功績を残しています。晩年にはMetoo運動で過去の女性に関するセクシャル・ハラスメントで告発されましたが、世界の70を超える美術館に作品が収蔵されるなど評価を確立した人物でした。チャック・クロース《Leslie》1972年 - 1973年|パネル張り紙に水彩、184.2 x 144.8 cm
本物と見紛うほど精緻な草や花の木彫をつくり、それを思いがけない場所に設置して空間全体をインスタレーションとする作品を制作する須田悦弘(1969 - )。空間全体の中で、ささやかに、しかし確かな生命感を感じさせる小さな植物の凝縮された造形を、一貫して彫り続けています。「ただリアルにつくるということに終始しようとは思わない。…ものを見るときに周りの空間が目に入らないわけがない。ならば、その空間もより重要だと私は考えます。ある場所に、ある筈のない、あるものと、ある時を、ある場合にのみ、存在させる。」須田悦弘《碁会所》2006年
ロン・ミュエク(Ron Mueck, 1958 - )は、オーストラリア出身のハイパーリアリズム彫刻家です。キャリア当初、ミュエクは児童向けテレビ・映画のためのモデルやパペットを作っていました。また、広告用のプロップ(小道具)を作成していましたが、プロップは裏から見ると構造がわかるようなものでした。しかし彼はどのアングルから見ても完璧なリアルな彫刻を作りたいというモチベーションを持っていました。画家として活躍していた義母のポーラ・レゴの協力を得て独立したミュエクは、イギリスの大手ギャラリーを運営するチャールズ・サーチに気に入られ、亡くなった父の姿を克明に表現した《Dead Dad》で一躍現代美術界に名を知らしめました。この作品に、ミュエクは自らの髪の毛を使ったと言います。青森県十和田市にある十和田市現代美術館に収蔵されているため、日本のアートシーンでも有名な作家です。ロン・ミュエク《Dead Dad》1996 - 1997年
前原冬樹(1962 - )は、プロボクサー、サラリーマンを経験した後32歳で東京藝術大学油画科に入学し、首席で卒業した異色の経歴をもつ作家です。大学の卒業制作は半立体ともいうべき作品でしたが、その後は木彫に転じ以後、驚異的な一木造りの作品を発表してきました。彫刻は全くの独学だと言いますが、油彩によって着彩され本物と見紛う質感を作り出す技術は、油画科時代の経験が生かされているのかもしれません。打ち捨てられてたもの、朽ち、錆びて、時を表面に刻み込んだものたち。前原が作る作品には、物に込められた時間と記憶が凝縮して表現されています。前原冬樹《一刻》2006年
リチャード・エステス(Richard Estes, 1932 - )は巨大都市ニューヨークを舞台に、ショーウィンドーなど街角の光景から高層ビルまで、近代文明の所産である都市風景をその冷徹ともいえる視線で捉えました。徹底した精密描写により現代を表現する作家として、チャック・クロース、ジョン・ビーダーなどと共にフォトリアリズムの代表的な画家として知られています。ステンレスの硬質で冷たい質感と、そこに反射する青白い光芒はエステスの絵画を特徴づけるモチーフです。シカゴ美術館附属大学で学び、ニューヨークやスペインでイラストレーターとして働いた後に独立。1966年からプロの画家として制作を始めました。リチャード・エステス《Telephone Booths》1968年
上田薫(1928 - )は、スーパーリアリズムの流れを汲んだ独特の構図で精緻な絵画を描く画家です。本人によって「クソリアリズム」と呼ばれている、生卵やジャムなどの日常の中に現れる現象的な質感を現実よりも生々しく描く手法で知られています。東京藝術大学で油彩を学び、グラフィックデザインの世界でキャリアをスタートします。1970年頃から再び絵画表現に戻り、「クソリアリズム」のコンセプトを生み出しました。作品のモティーフの多くは、殻が割られた瞬間の生玉子、スプーンから流れ落ちそうなジャム、水の流れや空など、一瞬で姿を変えるものです。時間と空間とを切り取るその鮮烈な描写は、リアリズム絵画のなかに独自の位置を占めるものとして、高く評価されています。上田薫《玉子にスプーン B》1987年
マリリン・ミンター(Marilyn Minter, 1948 - )はアメリカのハイパーリアリスティックの文脈に位置付けられる画家です。叫びをあげているように口を大きく開く女性の唇を中心としたイメージと水に濡れたガラスのイメージを組み合わせ、人種差別や同性愛嫌悪に抵抗するような絵画を制作しています。身体のごく一部が大きく拡大され、雨に濡れた窓ガラス越しに見るようなフィルターの元に描かれたモチーフは、ポルノ的要素、エロティシズムとフェティシズムを感じさせます。しかし、ミンター個人が口フェチなのではなく、フェティシズムを徽しているのは世界の方であるとミンターは主張します。マリリン・ミンター《Big Breath》2016年
金沢美術工芸大学で漆芸を学んだ池田晃将(1987 - )は、日本の伝統的工芸技法である螺鈿を用いて、映画『マトリックス』で描かれる近未来を思わせるような数字の羅列を物体の表面に施すスタイルで高い評価を受けています。ICチップ生産に用いられるパルスレーザーカットや超音波振動機といった現代の技術で加工された「螺鈿チップ」を緻密に貼り合わせていくことにより、電流やデータがそのまま可視化されたかのようなイメージが生まれています。工芸の中で頻繁に作られる箱や中次(薄茶器の一種)などの器物だけではなく、四角錐や木片をも池田流に変貌させた作品も目を引きます。百千金字塔香合
現代スペインのリアリズム美術を代表する巨匠、アントニオ・ロペス・ガルシア(Antonio Lopez Garcia, 1936 - )は、卓越した観察力とそれを表現し尽くす技術によって究極のリアリズム絵画を追求しています。ロペスは、一枚の絵に最長で10年もの歳月をかけることもあるほど、移り変わる時を一枚の画面に閉じ込めることに執拗な情熱を込めます。しかし、完成した、あるいは未完成のまま置かれた彼の絵画には、濃密な静けさが漂っています。自らの目で見て写すという最もシンプルな行為にこだわる彼は、写真を使うことはないと言います。「流行に興味はない。スペイン美術は昔から自分の眼と手の仕事だった。大切なのは感動であり、その存在感。だから写真とは無縁だ」1993年にマドリードの国立ソフィア王妃芸術センター、2008年にはボストン美術館で、さらに2011 - 2012年にはスペイン国内2ヶ所の美術館で大規模個展を開催するなど、世界的に高い評価を得ている画家です。アントニオ・ロペス・ガルシア《Madrid desde Torres Blancas》1974年TRiCERA ARTの最新の作品を見るTRiCERA ARTの会員の皆様には、様々な特典や優先をご案内しております。- 会員限定シークレットセール・クーポンなどの割引- お気に入り作家を登録してマイコレクションを作成- 人気作家や展示・イベントの新着情報をお届け- 厳選されたアートをメルマガで毎週お届け- パーソナル診断でお好みのアートを知るぜひ無料で会員登録をして、最新の情報をお受け取りください。
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