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  • CURATOR’s EYE

アート投資を学ぼう。有名企業のトップコレクターたち

2023/05/15
TRiCERA ART TRiCERA ART

世界的なアート系情報を配信するARTnewsが、90年代から毎年発表している「世界のトップアートコレクター200人」。
コレクター界隈では、一つのロールモデルとしてアートコレクションのつくり方の参考になっています。
今回は、その中から世界の代表的なトップコレクターと日本のコレクターを選出しご紹介します。
ぜひアート投資のイメージを作る参考にしてみてください。


日本のトップ資産家「柳井正」(ファーストリテイリング)

日本を代表するアートコレクター

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日本有数の富豪の一人である柳井正氏は、かつて『ニューヨーカー』にこう語りました。「アートは勉強するものではないと思う。美しいものというのは、それを見ることを楽しむものだ 」
柳井自身のビジネスであるアパレル業の商品のように着たり、実際に体験することで楽しむものがアートだと言います。
柳井氏は、ユニクロ、ヘルムートラング、セオリー、Jブランドなどを擁する複合企業、ファーストリテイリングの代表です。2020年9月の時点で、CEOマガジンによれば純資産を128億8000万ドルと見積もられています。

ユニクロのMoMAコラボ

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ユニクロは、ニューヨーク近代美術館と頻繁にコラボレーションすることでも知られています。
ウォーホル、ポロック、バスキア、キース・ヘリングなど、有名アーティストによるMoMAのコレクション作品はユニクロの服となって大衆の手の届く価格で「着られるアート」になりました。

柳井正のアートコレクション

自身のアートコレクションについては、柳井氏はあまり多くを語りません。
「コレクションと呼べるものかどうか分かりませんよ。しかし、他の人たちは、コレクションと捉えるみたいですが。」


メセナ事業に積極的な「大林剛郎」(大林組)

安藤忠雄にプライベートミュージアムの設計を依頼

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大手ゼネコン・大林組の会長である大林剛郎氏は、安藤忠雄が設計した麻布のプライベートミュージアム「游庵」を依頼したことでも知られています。
游庵は、外から見ると、大きなガラスの箱のような建物です。ガラスのファサードが、内側のコンクリート建築を包み込んでいます。1階と2階は居住スペース、地下は780点にも及ぶ現代美術のコレクションを展示するスペースとなっています。
「世界のANDO」とも言われる有名建築家にプライベートで設計を依頼するという点からだけでも、大林氏の並々ならぬ資産とアートへの深い思いが感じられます。
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プライベートミュージアム游庵

世界トップのアーティストのコレクション

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大林氏は以下のように語っています。

「コレクションを築き上げる過程で様々なストーリーがあったので、所有している作品にはとても個人的な思い入れがあります。

游庵では、ダニエル・ビューレン、トレーシー・エミン、マイク・ケリー、草間彌生、マーク・クインといった国際的なアーティストの作品や、オラファー・エリアソン、イ・ブル、ガブリエル・オロスコ、吉岡徳仁といった作家によるサイトスペシフィック・インスタレーションを設置しています。

地下のギャラリーでは、年に数回の展覧会を開催しています」


コレクションのきっかけ

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大林組本社(港区)29F応接室に展示されている、ダニエル・ビュラン《床から天井へ、またその逆方向へ》
大林氏のコレクションは、会社のオフィスを飾るために始めたものだったそうです。
その中で、アーティスト自身と対話することが非常に刺激的だったと言います。
最近は、日本の若手アーティストに特に注目していると語ります。2010年のインタビューで、彼はArtinfoに「才能はたくさんあるのに、残念ながら誰もそれに目を向けていない」と語りました。
大林氏の精力的な支援活動やコレクション活動で、アート界全体が活発化していることは疑いないでしょう。

23Fブロードウェイに展示されている、森万里子《ラスト・デパーチャー》


ポップアートを中心にコレクションする「田口弘 / 美和」(ミスミグループ)

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国際的な製造業社「ミスミグループ」の共同創業者である田口弘氏は、1996年に美術品の収集を開始しました。
最初はアメリカン・ポップアートを中心とした「ミスミ・コレクション」という企業コレクションからスタートし、その後、海外のアーティストの作品にも手を広げ、現在では500点以上の作品をコレクションしています。
2002年にミスミの取締役を退いた後は、「タグチ・アート・コレクション」と名付けた自身のコレクションの収集を開始しました。
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娘の美和氏との共同コレクション

2013年からは、娘の田口美和氏がコレクションを管理するようになり、作品の購入や全国での展覧会開催などを行っています。
美和氏は「みんなのためのコレクション」を作ろうとしているのだ、と過去に語っていました。
「タグチ・アート・コレクションの最も重要な使命は、全国で現代美術を楽しむ機会を提供することです。私たちは、質の高い作品を人々に提供できるよう、常にコレクションの充実を心がけています。それはとても心躍ることですよ」
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全国の小学校で開催される「デリバリー・ミュージアム」

幅広いコレクション作家リスト

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さまざまな媒体を収集する田口夫妻のコレクションには、草間彌生、杉本博司、村上隆、曽根裕、奈良美智、オノ・ヨーコといった日本のアーティストや、コラクリット・アルナノンチャイといった海外のアーティストによる作品があります。
他にも、マシュー・バーニー、マウリツィオ・カテラン、オラファー・エリアソン、エイドリアン・ゲーニー、ラシッド・ジョンソン、ピピロッティ・リスト、ウーゴ・ロンディノーネ、ケヒンデ・ワイリー、キース・ヘリングなどの国際的なアーティストをコレクションし、日本に紹介しています。

今後注目するべきアーティストとは

2022年には、ライアン・ガンダー、イインカ・ショニバレ、カダー・アティア、そして東京都現代美術館で史上最年少で展覧会を開催したEUGENE STUDIO(ユージン・カンガワ)などが新たに収蔵されました。
例えば、《Time Well Spent》(2019年)と題されたガンダーの作品は、コレクターにアーティストのエディション作品を販売することを求める自動販売機で構成されています。
「日本各地の美術館でのコレクション展の際に、この自動販売機でアーティストの作品をあちこちで販売したら面白いのではないかと思います」
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1日で130億ドル稼いだ男、「ジェフ・ベゾス」(Amazon)

世界一の富豪になった男

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2020年8月、Forbesはベゾスの純資産が2,000億ドルを超えたと報じました。2,000億ドルというのは、当時市場最高の資産額でした。(世界第2位のビル・ゲイツの純資産は、ベゾスに数百億ドル差をつけていました)
その財産の多くは世界一のデジタルマーケットプレイス・「Amazon」からもたらされています。
2020年は、コロナパンデミックの際に労働者の安全確保が不十分であったとしてアマゾンが広く批判されましたが、ベゾスの富は増すばかりでした。
2000億ドルの大台に乗るわずか1カ月前、Bloombergは、彼が1日で130億ドルの資産を増やしたと報じました。

コレクターとしてのベゾス像

同じ年、アートコレクターとしてのベゾスの姿もニュースになりました。
2019年11月、クリスティーズのオークションで、《Hurting the Word Radio #2》(1964年)というタイトルの、「RADIO」という文字が2つのクランプで圧迫されているエド・ルシェの絵画が、匿名の電話入札者に5250万ドルで落札され、ルシェ作品の最高記録を樹立しました。
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のちにこの買い手はベゾス本人であることが判明し、さらにベゾスが別の作品を購入したこともわかりました。
ケリー・ジェームズ・マーシャルの《Vignette 19》(2014年)は、サザビーズのオークションで1850万ドルで購入され、こちらも同アーティストの作品としては史上2番目に高額な落札額となりました。
ベゾスがいつ、どのようにしてアートを買い始めたのかはまだあまり知られていませんが、恋人のローレン・サンチェスがコレクターとしての趣味に関係しているのかもしれません。
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文化芸術への支援

2021年2月、ベゾスは夏の間にアマゾンのCEOの座を退くと発表しました。
彼は執行会長の役割に移行しましたが、同年末、ワシントンD.C.の国立航空宇宙博物館に2億ドルを寄付し、2022年にはシアトルの歴史産業博物館に1000万ドルを寄付し、同博物館はイノベーションセンターをベゾスの名にちなんで名付けました。文化芸術に関する関心の高さが伺えます。
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香港の最重要コレクター「エイドリアン・チェン」(K11)

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2010年、エイドリアン・チェンが世界中の優れた現代美術のコレクションを集め始めたとき、彼は世界で最も若い億万長者と噂されていました。
チェンは祖父のチェン・ユートンが設立し、彼が取締役副会長を務める94億ドルの新世界発展不動産・小売業を受け継ぎました。そして、その一部として、2009年に香港でK11ブランドを立ち上げました。

K11のコンセプトの作り方

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Chengは2つの事実からK11を立ち上げました。
1つは、アートは大衆のものであるということ。
もう1つは、大衆は一度や二度はモールに行く可能性があるということです。
メインフロアでのショッピングは、地下に展示される現代美術の展示の資金源となり、より多くの一般観客が現代アートに触れる機会を増やすことになるのです。
2022年には、深センに240万平方フィートの広さを持つ複合文化施設をオープンする計画を発表しました。そのプロジェクトには14億ドルの値札が付けられています。

香港を代表するアート施設

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ChengのK11 Art Foundation(KAF)は、香港と上海に展示スペースを持ちます。
Katharina Grosse、Guan Xiao、Neïl Beloufa、Zhang Enli、Oscar Murilloといった世界の著名な現代アーティストを招聘し、中国の主要都市で60以上の展覧会を開催してきました。
また、同財団は、2014年アーモリーショー(ニューヨーク)でリャン・ユアンウェイを紹介するなど中国国外でも大規模なプロジェクトを展開したほか、世界中の中国人アーティストにレジデンスを提供しています。

自国の現代アートの支援

チェンの目的は、一般的な芸術の啓蒙だけでなく、特に中国の現代美術の認知度を高めることにあります。
「中国の現代アートは、中国の文化的アイデンティティを再発見し、新しい中国文化を構築していると思う」と、チェンは2014年にARTnewsに語りました。

国外でも盛んなアートに関する活動を展開

チェンはモールの外にまで手を広げ始めています。
2016年には、ニューヨークを拠点とするパブリック・アート・ファンドの理事会に参加し、2018年11月には、ロサンゼルス現代美術館の理事会に参加し、同館の新館長クラウス・ビゼンバッハと最初の協働を行いました。
2019年5月、香港タトラーによると、アメリカファッションデザイナー協議会はチェンを「グローバルアンバサダー」に任命しました。このポジションは、アメリカ人デザイナーの海外ブランド展開をサポートすることを任務とするというものです。



世界一の富豪「エレーヌ&ベルナール・アルノー」(LVMH)

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複合企業「LVMH」の会長として、「ルイ・ヴィトン」や「ロエベ」などをはじめとする高級ブランド社を複数保有するベルナール・アルノーと妻エレーヌは、トップ200コレクターの常連としても知られる最も裕福な夫婦です。
2023年4月にロイターが発表したニュースによれば、アルノーの資産は2110億ドル(約28兆円)で世界トップとなり、昨年の首位イーロン・マスク氏を抑えました。

高級ブランドと現代アーティストのコラボ

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アルノーは、自身の高級ブランドの新製品をデザインする際に、アーティストに協力を求めることが多く、ルイ・ヴィトンではリチャード・プリンスや村上隆に、ドン・ペリニヨンではジェフ・クーンズに特別仕様のパッケージ製作を依頼しました。

LVMH美術館の開館

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2014年、ルイ・ヴィトン財団は、パリのブローニュ地区に1億3500万ドルをかけてフランク・ゲーリー設計の美術館を開館しました。
この美術館は、2005年に閉館した芸術・民俗伝統博物館があった建物を再利用しています。
ここに収められたコレクションには、戦後および現代美術に富み、ダミアン・ハースト、パブロ・ピカソ、アンディ・ウォーホルなど優れたアーティストが含まれています。
美術館のオープニング・セレモニーでは、アーティストのサラ・モリスがフランク・ゲーリー建築に関する映画を制作しました。

近代美術の大回顧展

2018年、ニューヨーク近代美術館は、ルイ・ヴィトン財団に200点以上の作品(ポール・セザンヌ、マルセル・デュシャン、イヴォンヌ・ライナーの作品を含む)を貸し出し、75万人以上を動員した超大型展覧会を開催しました。また、同年にはジャン=ミシェル・バスキアとエゴン・シーレの回顧展を開催し、高い評価を得ています。

フランソワ・ピノーとの関係

アルノーは、同じく高級ブランド「グッチ」や「バレンシアガ」を抱えるケリング会長であり、世界最大のオークションハウス「クリスティーズ」会長も務めるフランソワ・ピノーと、競争関係にあることはよく知られています。
この二人は長年にわたり、アートとビジネスの両分野において、「ハンドバッグ戦争」とも呼ばれる複数の競合いを起こし、真っ向から対立してきました。
2008年には、ピノーはサザビーズで20世紀のフランス人芸術家イヴ・クラインの作品2点を競り落としました。2018年には、ファッションデザイナーのステラ・マッカートニーがピノーのコングロマリットであるケリングと決別することを発表し、続けて2019年7月には、マッカートニーがLVMHに入社する契約を交わしたことを明らかにしました。
そして、今年4月にパリのノートルダム大聖堂で起きた大火災の支援についても競争的です。ピノーらは、寺院の再建のために1億ユーロ(約1億1300万円)の寄付を発表し、その数時間後、アルノーとLVMHは大聖堂の復興に2億ユーロ(約2億2600万円)を拠出することを発表しました。
二人の競争関係が非常に分かりやすい事例と言えるでしょう。



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現代アートの歴史・楽しみ方・各アートジャンルの解説など、役に立つ情報を芸術大学卒業のキュレーターが執筆しています。TRiCERA ARTは世界126カ国の現代アートを掲載しているマーケットプレイスです。トップページはこちら→https://www.tricera.net