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  • CURATOR’s EYE

意味不明と言われる現代アート。どうやって見る?

2023/04/26
TRiCERA ART TRiCERA ART

何かと話題になる「意味不明な」現代アート。
確かに、バナナがテープで壁に貼り付けられているだけだったり、水玉がひたすら描かれているだけだったり…
まずはよく槍玉に上げられる意味不明な作品をピックアップしてそこに込められた意味を考えてみましょう。


①1600万円の「バナナ」マウリツィオ・カテラン《Comedian》

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2019年、アートバーゼル・マイアミに出品されたマリツィオ・カテランによる作品《Comedian》。本物のバナナが、灰色のスコッチテープで壁に貼り付けられただけの正真正銘の現代アート作品です。
カテランは、約1年前から同作のアイデアを考えており、旅行のたびにバナナを持ってホテルの部屋に飾っていました。最初はバナナのかたちにした彫刻を考えていましたが、樹脂やブロンズを使っていくつかのモデルを制作したあと、最終的には本物のバナナをそのまま作品にしたといいます。

フェアの初日には、同作のふたつのエディションが12万ドル(約1300万円)の価格で個人コレクターによって購入。
3つ目のエディションは、15万ドル(約1600万円)で美術館が購入予約しました。
この作品を購入すると、カテランによる証明書と設置マニュアルが添付されます。
出展ブースを提供したギャラリーペロタンのオーナー、エマニュエル・ペロタンは、「購入」はあくまで作品の一部で、「証明書がなれけばこの作品は物質的な表現にすぎません。誰かが買ったという事実が作品をつくるのです」と話していまた。

しかし、フェア最終日前日、衝撃的な事件が起こります。
ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、デビッド・ダトゥナがバナナを壁から剥がして食べてしまったのです。
ダトゥナは事件後、その行為を「Hungry Artist」というパフォーマンスと名付けて一連の動画を Instagram で公開。「マウリツィオ・カテランの作品とそのインスタレーションが大好きです。とても美味しい」とコメントしました。
ダトゥナに対して法的責任は追求されませんでしたが、フェア最終日にはカテランの作品は撤去されました。賛否両論の入り混じった来場者の入場を抑制できなくなることを懸念しての決断でした。
最終的に食べられてしまうというなんともタイトル通りのコメディーのような結末を迎えた一連の事件ですが、非常に脆い構造の上に成立している現代アートの特徴が如実に表れています。
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②ただの切り込みが入ったキャンバス?ルーチョ・フォンタナ《空間概念》

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フォンタナは、20世紀に活躍したイタリア系アルゼンチン人のアーティストです。
現在も多くの画家の絵がその上に描かれる、キャンバス自体をオブジェクトとして認識させることを鑑賞者に要求しました。彼は、キャンバスに鋭利な切れ込みや穴を開けることによって「空間主義宣言」という制作を展開します。
これは、もはやキャンバスの上に描かれている何かしらの形が問題なのではなく、何かを描くことによって西洋の画家が成し遂げようとしてきたことをよりクリティカルに見つめようとした末の行動でした。
すなわち、二次元という平面上に三次元の空間を再現すること。現実に見える様々な風景や運動といった捉え難いイメージを、絵の具によって永遠にとどめようとすること。
フォンタナは、キャンバスを切り裂くことによって、キャンバスの中に生まれる仮想的な三次元空間を切り裂いたと考えることができます。それによって、「今まで二次元の布の中に閉じ込められていた絵画表現」と、「そこから脱出して現実の三次元空間の中で作品を展開する」という視点を多くの人にもたらしました。
フォンタナは、以下のような言明を残しています。

「画家として、キャンヴァスに穴を穿つ時、私は絵画を制作しようと思っているのではない。

私は、それが絵画の閉鎖された空間を越えて無限に拡がるよう、空間をあけ、芸術に新しい次元を生みだし、宇宙に結びつくことを願っている」




③「子供の落書き」サイ・トゥオンブリー《無題 (NYC)》

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黒板に描かれたただの落書きにしか見えないこの作品は、2015年のサザビーズニューヨークのオークションで7,000万ドル(当時の為替で約84億円)で落札されました。
彼の作品は、他にも詩的な文言を荒々しく書きつけたようなものや、細かなスクリブルが集積したような作品を制作しています。
一見意味不明に見える彼の絵ですが、実は様々な神話や物語をリソースに彼独自の解釈で描き直しています。例えば、下の作品ではパトロクルスの死を嘆くアキレスの姿が描かれていると言われています。
彼の、文字を描きつつもそれをぐりぐりと手荒くかき消したり、自らの身体行為とその不安定感をそのまま画面の上に痕跡として残すようなスタイルは、日々不確かな情報に晒されながらことあるごとに主観的な決断を下し続けなければならない私たち自身の姿と重ねることができます。
優柔不断、稚拙に見えたトゥオンブリーの身振りも、私たち自身の身振りの反映なのかもしれません。
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④ただの四角?マレーヴィチ《黒の正方形》

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この作品を発表したカジミール・マレーヴィチは1920年当時のソ連の画家でした。
マレーヴィチは、未来主義オペラ作品のための舞台美術を制作していました。未来主義とは、前衛的な美術グループの名前で、作品は無意味な言葉や脈絡のないプロット、不協和音のBGMで構成される非常に前衛的な作品を発表していました。
当時、「新しい芸術は非対象的でなければならない」と考えていたマレーヴィチは、この舞台美術についても、何か特定の風景や人物を描くのではなく、抽象的で幾何学的なものが絶対的な価値を持つとしていました。マレーヴィチはそれを「絶対主義 = シュプレーマティズム」とよび、極限まで要素を減らした絵画を制作しました。
ただの「黒の正方形」は、何物も表象せず、ただ「黒の正方形」だけとして存在します。その絶対性が、この作品が最初に展示された部屋の場所、天井の片隅という場所に結びついた、ロシア正教のイコン的絶対性と結びつきました。
極限まで単純化された絵画が、偶像崇拝を忌避する正教的伝統に合致し、さらには美術史の中でもピッタリと抽象表現が出てくる時代に合致したのです。マレーヴィチが評価されたのは、そのような文脈の中においてでした。
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⑤ただのカレンダー?河原温《Date Painting》

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ただの日付が描かれているようにしか見えない、河原温の《Date Painting》シリーズの絵画作品。
河原は、世界中を旅しながらそれまでの美術とは全く異なるやり方で制作を続けた芸術家でした。
このシリーズは、日々拠点を変えて滞在する国が変わっていた河原が、そのとき自分が居る土地の言葉でその日の年月日をキャンバスの上にアクリル絵具で描き、その地で購入した当日の新聞を内側にあしらった梱包箱の中に納める、という単純なルールのもと作られたものです。そのルールの中には、必ず一日の中に作業の始まりと終わりを設定し、もし深夜12:00を過ぎて制作が終わらなかった場合は破壊する、という注釈も付いていました。
このようにして、およそ40年間の間に約3,000枚のDate Paintingを仕上げました。
他にも、「I am still alive(私はまだ生きている)」というメッセージを電報で友人に送ったり、「I Got Up at ...(〇〇時に起床)」というメッセージを郵便で友人に送ったりする行為を「作品」と呼んで何十年も継続しました。
常人にはにわかには理解できないモチベーションですが、このような独特の行為に共通するのは「時間」という概念です。奇しくも先ほど紹介したルーチョ・フォンタナは「空間概念」を拡張することを目指しましたが、河原は一枚の平面作品、ある一定の空間を占有する物体以上の意味を、それが表象する時刻、時間の幅、悠久の時間といったものによって追求しました。
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現代アートの歴史・楽しみ方・各アートジャンルの解説など、役に立つ情報を芸術大学卒業のキュレーターが執筆しています。TRiCERA ARTは世界126カ国の現代アートを掲載しているマーケットプレイスです。トップページはこちら→https://www.tricera.net