ダミアン・ハーストとは何者か?
ダミアン・ハースト(Damien Hirst)は1965年生まれのイギリス・ブリストル出身の現代美術家。
ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)と呼ばれる1990年代のイギリスで活躍した若手のコンテンポラリー・アーティストの中でも代表的な存在である。
86年、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ美術学部に入学。88年には廃ビルで学友たちと展覧会「Freeze」を自主開催し、イギリス美術界の新たなムーブメントとして注目を浴びた。
イギリスの中で最も稼いでいる芸術家とも言われており、サンデータイムスによれば2020年には総資産400億円(3億8400万USドル)を数えた。
2022年東京で行われた「桜」展でも、およそ4万人を動員するなど注目度が伺える。
ダミアン・ハーストの経歴
生い立ちと教育
ブリストルに生まれ、リーズで生まれ育つ。実の父親とは顔を合わせたことがなく、彼が2歳の時に母は継父と結婚するが、その10年後に再び離婚する。継父は自動車工だったという。
この頃ハースト自身も荒れた生活を送っており、2度窃盗で逮捕されている。不良だったハーストが唯一得意だった科目が、ドローイングなどの美術だった。
1983年にロンドンのヘイワード・ギャラリーで開催されていたフランシス・デイヴィッドソンの展覧会を見て、「衝撃を受けた」とのちに語っている。
その後、2年ほど建設現場での仕事を経て、1986年から89年の間、ゴールドスミス・カレッジでファインアートを学ぶ。大学では、イギリスのコンセプチュアル・アーティストのマイケル・クレイグ・マーティンから大きな影響を受けた。
さらに、学生時代は死体安置室でのパートタイムをし、のちの彼の死生観に大きな影響を与えたと言われている。
Freezeの開催
1988年、同級生と共同企画した独立展示の「Freeze」を開催。ロンドンの港の廃墟を使用して行われたこの展覧会には、ロンドンの著名なギャラリストのチャールズ・サーチやノーマン・ローゼンタールなどが訪れた。
その後、1990年に「Modern Medicine」と題した展覧会を、元ビスケット工場を使用して開催した。そこで発表されたハーストの代表作の一つ『A Thousand Years』を目にしたチャールズ・サーチは、驚愕し、その場で購入を即断したという。この作品は、解体された牛の頭部とそれに群がるいくつもの蝿がガラスケースの中に収められており、さらに蝿が止まると殺すような仕掛けにより、牛の頭部にウジがわき、成長して飛び立った蝿は卵を産みつけ、装置によって死を迎えるという生死のサイクルが狭いガラスケースの中で再現されている。
ダミアン・ハーストの代表作5選
《The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living》(1991)
イタチザメ、ガラス、鉄、5%ホルムアルデヒド溶液
ガラス容器に入ったホルムアルデヒドに漬けられたイタチザメからなっている。
1991年にチャールズ・サーチによって委託されて作成され、2004年に800万ドルで売却されたと言われている。賛否両論の激しい本作であるが、その後サメの腐敗により中身のサメ自体は交換を経るという修復作業が行われた際に「結果的に同じ作品とみなすことができるのだろうか」という芸術作品の定義を問うような疑問を提出することにもなり、議論の対象として非常に興味深い作品であると言える。
コンセプチュアルアートの定義に従えば、中身の物質自体が変わったととしてもそのアイディア自体が作品であるという考え方もできる。
《A Thousand Years》
「A Thousand Years」は、長方形のガラス製容器で、中間に数個の丸い穴をあけたガラス板で二等分されている。
片方には切断された牛の頭が安置されており、その上に昆虫の感電ライトが吊り下げられている。
もう半分は大きな白い立方体で、すべての面に1つの点がある。
檻のような容器に放たれたウジが牛の頭を食べてハエに変態し、必然的に感電ライトで命を絶つという仕組みだ。
何時間もハエを観察していると、一見自由そうに見えるが、実はその自由は、必然的に終わるふらふらとした運動によって完全に制約されている。この自由の縮小は、音楽家ジョン・ケージの「Chance Operation」という概念と類似していると言える。
《Spot Painting》シリーズ (1986~)
《Agaricin》(1992)
ハーストの最も有名な代表作の一つである本シリーズは、白地に等間隔に並べて描かれたカラフルな円形が特徴の作品。この円形は錠剤を表しており、このシリーズでは《Agaricin(アガリシン酸)》など薬剤の名前をタイトルにし、それぞれの作品が描かれている。ハーストは薬剤をモチーフによく使用するが、これは人間の死に抗う欲望を表している。
《Mother and Child, Divided》(1993)
ガラス、ステンレス鉄、アクリル樹脂、アクリル、牛、子牛、ホルムアルデヒド溶液
縦二つに切断された状態の牛と子牛をホルマリン漬けにした作品。ハーストの代表的な表現方法であるホルマリン漬けした動物の中でも、最も有名な作品の一つ。切断された牛の間を通ると体内の内臓の様子を見ることができる。ヴェネツィア・ビエンナーレに出品され、1995年にターナー賞を受賞した。
《Pharmacy》(1997)
イギリスのノッティング・ヒルにあるレストランを薬局のように装飾してオープンしたインスタレーション作品。薬品が効く体の部位をそれぞれシステマチックに並べることによって人体が表現されている。本作の第1弾は2003年に閉店したが、2016年に第2弾が、ハーストが経営する「ニューポート・ストリート・ギャラリー」内にオープンした。
《For the Love of God》(2007)
18世紀の人間の頭蓋骨を型取ったプラチナに、8601個の純ダイヤモンドで敷き詰めた彫刻作品。主題は「メメント・モリ(死を想え)」。制作費は約33億円で、5000万ポンド(約120億円)の価格がつけられた。
ダミアン・ハーストの影響力
現代アート界に与えた影響
ダミアン・ハーストの作品は、特に最初期のホルマリン漬けの作品に顕著だが、生き物の生死を扱う作品が多く、幾度も動物愛護団体や一般市民からの反発を招いてきた。また、《The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living》や《For the Love of God》については、他のイギリス人アーティストの模倣であるという批判もされている。
彼のスタイルが議論を巻き起こすのは事実であり、実際にオークションで高値の値段がついているのも事実である。彼が美術史に残るかどうかは歴史のみが知ることだが、「芸術」や「現代アート」の定義を揺るがす作品であるということは確かだ。
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