美術館に収蔵されている、世界の有名な絵画。
なぜこれが有名なのだろう?と疑問に思ったことはありませんか?
世界の名画10選|不朽の名作を知るでは、15世紀〜20世紀初頭までの有名な西洋絵画をご紹介しました。
今回は、世界の有名美術館にある、さらに深掘りした現代の有名絵画作品10枚をご紹介します。
①サルバドール・ダリ《記憶の固執》
ありえないモチーフを組み合わせて非現実的な絵画を作り上げるシュルレアリスムの代表的画家、サルバドール・ダリ。
彼の代表作が、こちらの《記憶の固執》です。
ダリが27歳のときの1931年に発表された比較的初期の作品で、ダリの特徴的な砂漠の情景と、溶けて変形した時計やその他の不思議な物体などの独自のモチーフがすでに垣間見られます。
この作品は現在ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されており、20世紀の美術の中でも特に重要な絵画の一つと考えられています。
一見すると意味不明に見えてしまうかも知れませんが、実は、この絵画に描かれた一つ一つのモチーフはそれぞれ象徴的な意味を隠し持っています。
ある時、キッチンでダリのパートナー兼モデルのガラが食べ残したカマンベールチーズが溶けていく状態を見たダリは、「溶けている時計」というイメージのインスピレーションを得たと言われています。
通常は硬いもので、規則的に時間を刻んでいくはずの時計。
それがチーズのように溶けて歪んでしまうことで、「ダリは時間と空間のゆがみ」を表現しているとも考えられます。
アインシュタインが『一般相対性理論』を発表したのは1915年。徐々に世間にも流布しつつあった、「時間と空間は相対的なものであり、自分の視点により歪んで見えることもありうる」という考え方に、ダリも影響を受けていた可能性が考えられています。
また、画面中央に横たわる餃子の皮のような白い不思議な物体は、ダリの潜在的なイメージを象徴しています。肉体的・性的な興奮と、その衰退や崩壊。それが形になったのが、この謎の物体であると考えられます。
そして、手前左側の蟻が集まるオレンジ色の時計は、「腐敗」の概念を表していると思われます。
ダリの絵画に登場するものは、一つ一つの要素が彼自身の欲望や当時の革新的な考え方などの象徴となっており、読み解けば読み解くほど楽しいという特徴を持っています。
②ピエール・オーギュスト=ルノワール《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》
印象派の有名な画家、ピエール・オーギュスト=ルノワールが1876年に描いたのが、《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》という絵画です。
ムーラン・ド・ラ・ギャレットとは、パリの文化人が集まるエリアであるモンマルトルにあった屋外ダンスホールでした。
ちなみに、「ギャレット(Galette)」とは「風車」の意味で、特徴的な風車がランドマークでした。
この絵画は、1877年に第3回印象派展に出品され、現在ではパリのオルセー美術館に収蔵されています。
ルノワール自身の友人たちをモデルにしながら描かれたこの楽しげな絵画は、美しい模様を人々の上に落とす木漏れ日や、ダンスを楽しみほろ酔い気分になった人々の表情が豊かに描かれています。
印象派の中でも非常に人気の高いルノワールの代表作とも言えるこの絵画は、上に掲載した大きいバージョン(131cm x 175cm)と、現場で描かれたスケッチサイズの小品の二つのバージョンがあります。
メインの大バージョンは、バブル末期の1990年に、大昭和製紙(現・日本製紙)の名誉会長である齊藤了英が7800万ドル(絵画史上、2位の価格)で落札したことでも話題になりました(バブル崩壊後、スイスの蒐集家の手に渡ったと言われています)。
③ジャン=フランソワ・ミレー《種をまく人》
ジャン=フランソワ・ミレーによる《種をまく人》は、種まきをして生き抜いていく農民の姿を謳いあげるような力強さが特徴的な絵画です。
1850年に描かれたこの絵画は現在アメリカのボストン美術館に所蔵されており、当美術館の目玉作品の一つとなっています。
1850年、パリのサロン(官展)に出品された本作は、農民の悲惨な生活に抗議する政治的な表明ととらえる人も多く、激しい議論を呼んだと言われています。
当時のフランスは、2月革命や普通選挙の実施によって政治的発言力を増した農民・労働者階級と、その脅威を抑え込もうとするブルジョワ階級との対立が高まっていました。
そのため、保守派からは「ミレーは農民と呼ばれる悪党と同種の輩である」などと非難を浴びる一方で、左派からは、「彼は現代の民衆の擬人像である」などと持ち上げられました。両極端な評価は、当時の様々な階級のフランス人に訴える力を持ったこの作品の底力を感じさせます。
また、技法の面でも、アカデミックな技法では嫌われる絵具の厚塗りを行っており、その点でも革新的でした。
その様子を、評論家のテオフィル・ゴーティエは「乱暴な身振りと、ひどく粗末ななりをしたこの人物は、種をまく土の色で塗られているかに見える」と評しました。
政治や社会の現実を描くミレーと共に、同じ時代にはクールベ、ドーミエといったレアリスムの画家が現れており、それまでの理想主義的な絵画とは一線を画した美術史上の革命だったと言えます。
④フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》
ゴッホの《ひまわり》といえば、誰もが一度は教科書やポスターなどで見かけたことがあるでしょう。
実は、ゴッホによって描かれたと認められている現存する《ひまわり》は全部で10枚あります。
それぞれを収蔵している美術館の場所にちなんで「〇〇版」と呼ばれており、上の画像の《ひまわり》はロンドンのナショナルギャラリーが所蔵している「ナショナルギャラリー版」です。
この作品は1888年に描かれました。
ゴッホはその画業の中で幾度か集中してひまわりに取り組んでおり、このひまわりは南仏のアルルという温暖で美しい光が溢れる土地で描かれた中の一枚です。
花瓶からこぼれ落ちそうなほどに活けられたひまわりは、ひまわりと同系色の明るい黄色を背景にシンプルな構図で描かれています。
ひまわりの張り詰めるような躍動感と、下を向き枯れてゆきつつあるものが同居する、生命のサイクルを感じさせる作品になっています。
ちなみに、この作品は2022年10月に「Just Stop Oil」キャンペーンを掲げる環境保護活動家によって、トマト缶を投げつけられてしまった作品です。
作品へのダメージはありませんでしたが、額に多少の傷がついたと言います。2人の活動家は逮捕され、作品は清掃をへて当日中に展示室に戻されました。
今一度、歴史的な芸術作品との向き合い方とその保護を考えさせられるきっかけとなった事件だったと言えるでしょう。
⑤ウジェーヌ・ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》
この絵画は、ロマン主義の代表的画家のウジェーヌ・ドラクロワによって1830年に起こった事件の「七月革命」をモチーフにしています。
中心に描かれている、銃を左手に持ちフランス国旗を右手で掲げ民衆を導く果敢な女性は、「マリアンヌ」というフランスのシンボル的女性像の代表例です。
マリアンヌ自身は「自由」を、片方露わにされた乳房は「母性=祖国」を象徴した、アレゴリカル(寓話的)な絵画になっています。
ダイナミックで動きのある構図と劇場的なテーマの絵画は、まさにロマン主義という芸術運動の代表作と考えられています。
1874年に所蔵されて以来、ルーヴル美術館の目玉作品として世界中の人々の注目を集めています。
ドラクロワは他にも、《キオス島の虐殺》などの歴史的事件をテーマにしたドラマチックな絵画を発表しています。
参考作品:キオス島の虐殺(1823-24年、ルーヴル美術館所蔵)
⑥フランシスコ・デ・ゴヤ《我が子を喰らうサトゥルヌス》
《我が子を食らうサトゥルヌス》は、スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤの絵画作品で、連作「黒い絵」の中の一点です。
その衝撃的な画題と、内容を直接的に表現したタイトルやビジュアルによって、一目見たら忘れられない作品となっています。
この作品は1819から1823年の間に描かれたと考えられており、現在はスペインのマドリードにあるプラド美術館に所蔵されています。
この絵画は神話をテーマにしています。
ローマ神話に登場するサトゥルヌス(ギリシア神話のクロノスに相当)という農業の豊饒をつかさどる神が、将来自分の子に殺されるという予言に恐れを抱き、5人の子を次々に呑み込んでいったという伝承が描かれています。
サトゥルヌスはもともとは神々の住むオリンポス山の王でしたが、老境にさしかかると、サトゥルヌスは自己の破滅に対する恐怖から狂気に取り憑かれてしまいます。
自分の子を頭からかじって食い殺す凶行に及ぶ様子が、リアリティをもって描かれています。
あまりにリアルでグロテスクなその描写に、嫌悪感を抱く鑑賞者も少なくありません。
しかし同時に、その直接的な表現ゆえに、美術史上でも稀に見られる傑作として名を残しています。
この絵画はゴヤが晩年に描いたシリーズである《黒い絵》シリーズの代表作品です。詳しい解説は下記の記事にありますので、ぜひあわせてお読みください。
《我が子を食らうサトゥルヌス》とは何か?ゴヤの名作を解説!
⑦パブロ・ピカソ《アヴィニョンの娘たち》
世界で最も有名な画家のうちの一人、パブロ・ピカソが26歳の時、1907年という画業の初期に発表したのが《アヴィニョンの娘たち》です。
着想源となったのは、スペインのバルセロナにある「アヴィニョン通り」という娼婦館の並ぶ通りでした。
画面左側の女性の横顔は古代エジプト彫刻、中央の2人の顔には古代スペイン彫刻、また、より特徴的に歪曲された右の2人の顔には、アフリカ彫刻の影響がはっきりと見られます。
この作品を起点として、ピカソやジョルジュ・ブラックらが中心となって提唱した「キュビズム」という芸術運動が始められました。
キュビズムという考え方においては、遠近法やリアルな陰影表現などの写実的なものではなく、事物をいったん解体した上で再構成するという、絵画ならではの新しい表現を目指しました。
この作品は、現在はニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されています。
⑧ピエト・モンドリアン《赤・青・黄のコンポジション》
モンドリアンの抽象画は時代を超えて愛され、そのシンプルさとモダニズム的な抽象表現が現代のアーティストに影響を与えています。
シンプルな線、形、色で感情や感覚を呼び起こす能力は、モンドリアンが目指したものでした。
普遍的で感情的なつながり、神智学に関する研究にも没頭したモンドリアンは、初期は具象的な絵を描いていました。
キュビズムなどに影響を受けながら、次第にミニマルな表現に変化していきます。
ミニマルの極致とも言える領域に達したこの作品は、1930年に制作されました。
彼は、こんな言葉を残しています。
「私は、線と色彩のコンビネーションを平らな表面に構築する。それは最大の集中力で普遍的な美を表現するためだ。自然(もしくは、私が見るもの)は、私に霊感を与え、何かを創作する衝動を引き起こす。しかし、私はできる限り真理に近づいて、すべての要素をそこから抽出したいのだ。そして、それを支える基本的なものに到達したいのだ…それがまだ、表面的なものだとしても。
水平線と垂直線を明瞭な意志で、しかし計算的なものではなく、高尚な直感で描けば、調和とリズムをもたらすことが可能だと思う。その線が強度を持ち、神聖性を持つのは、それが芸術だということである。」
⑨ポール・セザンヌ《りんごとオレンジ》
1899年に制作されたこの静物画では、緊張感をはらんだ歪みが見られます。
様々な角度から見たモチーフを同一の画面に同居させることによって、テーブルの稜線が食い違っていたりするなどの効果が見られます。これは、のちにキュビズムによって高く評価され、発展させられることになりました。
「りんごでパリを驚かせたい」そうセザンヌがたびたび口にしていたことを、19世紀の著名な美術評論家ギュスターヴ・ジェフロイは回顧しています。
セザンヌはこの作品により、伝統的な遠近法と描写法を根本から破壊してしまいました。
「美しい絵画」を描くための動機としての「モチーフ」。
セザンヌおよびそれに続いたピカソは、そのような捉え方を徹底し、この考え方は現代に至るまで絵画制作のさいの基本姿勢として受け継がれています。
⑩レオナルド・ダ・ヴィンチ《岩窟の聖母》
高さが2mもあるこの巨大な作品は、パリのルーヴル美術館に所蔵されています。
実は、全く同じ構図で描かれたもう一つの作品も残されており、そちらはロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。
この絵画には、聖母マリアと幼児キリスト、そして幼い洗礼者ヨハネと天使が岩窟を背景として描かれています。
複雑で奥行きのある空間と、一人ひとりの人物や衣服の柔らかな形態を表現するために、レオナルドの絵画の特徴である「スフマート」技法が存分に発揮されています。
1483年から1486年にかけて制作されたと考えられており、もともと教会の祭壇画として三組の絵画のうちの中心の一枚であると研究によって明らかにされています。
聖母マリアが優しく抱くキリストと、天使と共に座り込む洗礼者ヨハネの姿が柔らかい光の元に描かれています。
モナ・リザにも共通して感じられる優しげな雰囲気と緻密に描き込まれながらも空間としての統一感を保っているこの作品は、傑作揃いのイタリアルネサンス期の中でも最も美しい絵画の一つと言っても過言ではないでしょう。
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