バンクシーは世界で最も有名なストリートアーティストです。街の壁に描かれた彼の作品は、複製されて様々なオークションで数百万ドルという高値で取引されています。
バンクシーは、作品をストリートなどの公共空間に描きます。
その時どきの大きな社会問題の現場に作品を残したり、紛争についてのステンシル作品を発表しています。彼の作品が「発見」されると、毎回大きな騒ぎになることで有名です。
今回は、日本でどのようにバンクシーが受け入れられたかを含めてご紹介いたします。
バンクシーが日本で有名になったシュレッダー事件
事件の顛末
2018年10月15日、バンクシーは再び世界の注目を一点に集めました。
それは、シュレッダーで細長く引き裂かれた彼自身の作品《Girl with Balloon》でした。
この作品は、10月15日にロンドンで開催されていた世界的オークショニア「サザビーズ」のオークションに出品された版画作品でした。次々と作品が競り落とされる中で《Girl with Balloon》が登場すると、バンクシーの人気を投影するように高騰し、最終的な落札額は104万2000ポンド(およそ1億5000万円)。バンクシーにとって、2番目に高い落札金額でした(当時)。
しかし、落札が決まった瞬間、会場にアラームが鳴り響くと、額縁にあらかじめ仕掛けられていたシュレッダーが作動し、作品を断裁し始めました。
騒然とする会場を尻目に、断裁された作品は、関係者の手によって会場から運び出されていきました。
シュレッダー事件の影響
バンクシーはなぜ作品を断裁したのでしょうか。
それは、投機対象として金だけが積まれていくオークション・ビジネスへの批判だといわれています。
実は、バンクシーのオークションへの批判はこれが初めてではありません。
2006年にロサンゼルスで開かれた展覧会「ベアリー・リーガル(かろうじて合法)」では、オークション会場をモチーフにした版画を100枚限定で販売。
そこには、「こんなゴミ作品を実際に買うお前たちみたいなばか者たちがいるなんて信じられない」と、メッセージを書き込んでいます。
オークション・ビジネスへのテロ行為ともいえるシュレッダー事件でしたが、事件後、断裁された作品は「史上初めて、オークションの最中に生で制作された作品だ」とサザビーズが宣伝し、落札者も落札金額を支払って購入しました。
最終的には批判そのものがオークション・ビジネスに取り込まれ、バンクシー本人の意図とは裏腹に作品の市場価値を上げることに繋がりました。
マーケット批判に込められたさらなる意味
バンクシーが継続して発表するセンセーショナルな作品に通底する痛烈なマーケット批判は、私たちの経済がベースとしている資本主義というシステム自体をも否定するパワーがあります。
バンクシーの代表作品とは
①Napalm (2004)
この作品は、ベトナム戦争を記録しピューリッツァー賞を受賞した著名な写真家のニック・ウット(フィン・コン・ウト)の撮影した写真をもとにしています。
オリジナルのウットの写真では、9歳の少女が米軍の絨毯爆撃から逃れる衝撃的な様子を写しています。
少女の姿のみを切り抜き、その両手の手首をアメリカを代表する2人のキャラクターがスキップするような雰囲気で掴んでいる、というよう構図になっています。
アメリカという強烈なコントラストを持つ国への痛烈な皮肉が受け取れます。この国の陰影が、どのように自分自身を知覚できるのか。また、他文化から見たときにどのように受け取られるのか。
少女をサンドイッチして導くふたりのキャラクターは、果たして少女を助け出すために誘導しているのか。
それとも、最期に向かって連行しているのか。
②Love is in the Air (Flower Thrower) (2003)
イスラエル、ヨルダン川西岸地区の分離壁が建てられたすぐ後に、巨大なステンシル作品(あらかじめ制作した型からスプレーを吹き付けて像を描く手法)の《Love is in the Air》は発表されました。
バンクシーが「パレスチナを世界最大の野外刑務所にした」と語る、ベツレヘムのこの長い長い壁に、この巨大な作品は描かれています。
男は、まるで手榴弾を敵方に投げつけるときのように、花束を持って投げようとしています。争いの無意味さを諭しながらも、バンクシーの愛に溢れる思いが伝わってきます。
③バスキアの “stopped-and-frisked” 、バービカン・センター (2017)
バスキアは近現代のアートから参照元を持ってくることは稀ですが、この作品はそのような稀少な中の一つです。
バスキア作品に登場する、バスキア自身とも言われている、骨が見えている黒い人物と犬がいます。
その体を、銃を携行した2人の警察官が取り調べしています。
この姿は、警察がグラフィティ・アーティストを扱うときの取り扱い方を皮肉に描き出しています。
何よりも皮肉なのは、このように警察官に捕まっているというグラフィティをバンクシー自身は捕まらずに描き切って逃げおおせたという事実でしょう。
④Love is in the Bin (2019)
シュレッダーにかけられ細切れにされた《Girl with Balloon》につけられたのが、このタイトルです。
元々はマーケットを批判するために沖縄れたパフォーマンスも、結局はバンクシーというアーティストの権威性の強化に繋がってしまいます。
すでに削除されましたが、バンクシー自身のインスタグラムにシュレッダーの仕組みなどが解説された投稿も上がっていました。
⑤Devolved Parliament, 2009
これはキャンバスに描かれた油彩作品です。イギリスの国会で議論するイギリス国会議員をチンパンジーに置き換えて皮肉っています。
この作品は、2002年に発表された《Laugh Now》という、もう一つのチンパジーを使った作品にも共鳴しています。
⑥Kissing Coppers, 2004
2人の警官が情熱的なキスをする様子が、バンクシーお馴染みの黒と白のステンシル技法で描かれています。
バンクシーの作品では、描かれている内容と同じくらい、「どこにそれが描かれたのか」というロケーションの情報が意味を持ちます。この作品は、イギリスのブライトンに描かれました。
ブライトンはLGBTQ+の中心地として有名な街で、街の住人の11 - 15%は同性愛者もしくは両性愛者だと報告されています。
ブライトンの性に関する先見の明は、1803年ナポレオン戦争の時からありました。この街で描かれることによって非常に馴染みやすいアートとなっています。
⑦Bomb Hugger, 2003
バンクシーがこの作品で主張しようとしたことは2つあります。
一つはメディアによって作り出された戦争に関する必要性や寛容性でした。爆弾を愛おしそうに抱くことによって、少女がメディアにより作り出された争い自体に対する慈悲深い愛が歪んだものであることに気付かされます。
少女にようにか弱い存在が、落としただけでその命自体を吹き度飛ばしてしまうほどの爆弾に触れているという危ない状況がよりそのはかなさを際立たせます。
⑧The Son of a Migrant from Syria, 2015
もとアップル社創業メンバーで世界的なカリスマ人気を博したスティーヴ・ジョブズ氏が描かれています。この壁画はカレー市に設置されており、その街はフランスからイギリスに渡る際に通過点でした。
ジョブズ家はシリアからの移民で、
⑩One Nation Under CCTV, 2007
王立郵便CCTVカメラの前の壁に描かれた本作は、警察官と犬に見張られながら少年がメッセージを描いています。
バンクシーの何がすごい?
バンクシーの反体制性
彼の作品は、常に体制や権力に抵抗する反骨精神と、その表現にユーモアが見られるのが最大の魅力です。彼の作品は、従来のアート作品とは作品が置かれる環境も、その環境が作品自体に持つ意味も違う次元にあります。彼の活動は常に社会的な言論活動の一環として捉えることが可能です。
「芸術のための芸術」になることは全くなく、多くの人が心のうちに持っている自由主義者的側面を刺激するような姿勢を一貫して保っています。
しかし、バンクシーが国内で有名になったきっかけであるシュレッダー事件などでは、その作品にも高値がついてそのまま売れてしまったという事実を考慮すると、逆に彼の作品はすべて消費物として受け止められてしまっていると言えます。
バンクシーの活動は本質的に大衆に徹底した意味で了解されるのは難しいものです。
例えばバンクシーの展覧会などは、バンクシー自身が認めたものはほぼなく、つまり無許可で美術館等が実施しているに過ぎないため、どれほどバンクシー展に動員されようと本人には一銭も入らない仕組みになっています。
バンクシーが本当に伝えているメッセージとその表現方法が本当の意味で鑑賞者に伝わるのは、まだまだ先かもしれません。
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