《ナルシスの変貌》とは?
《ナルシスの変貌》は、スペイン出身の画家サルバドール・ダリが制作した中でも有名な作品です。
一見、夕方の光に包まれた海岸の風景に見えますが、よく見ると夢の中のように支離滅裂なモチーフたちが配置されることに気づきます。
サルバドール・ダリの最も有名な作品・《記憶の固執》とも共通点を持つ、画家ダリの特徴をよく表している一作といえます。
《記憶の固執》についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
《ナルシスの変貌》ー作品の背景となる物語
ナルシスとは、自惚れという言葉にも対応する「ナルシスト」の語源となった、ギリシャ神話に登場する人物です。
この絵は、ナルシスが自分の姿を水面に映して見続けるうちに一輪の水仙の花になってしまう、という神話の物語をベースに描かれています。
ナルシスは絶世の美少年に生まれましたが、自分だけを愛していたのでその美貌に惹かれた多くの女性を振り回していました。それに起こった神々が、ある日ナルシスに水面に映った自らの姿を見せます。その美しい姿を、自分自身では抱擁することができないことに悩まされたナルシスは、憤死してしまいます。神々は、ナルシスを岸に生えていた水仙の花として永遠化しました。
この物語から派生したスペインのカタロニア(ダリの生まれ故郷)のことわざに、鏡ばかり見ている人を「頭の中に球根がある」と揶揄するものがあります。
絵画の中では、画面中央の左側に手足を水につけ、半分変貌し始めているナルシスが認められます。
手前で卵の殻を破りながら生えようとしている水仙の花に変化しているのです。
また、その背景には無関係とも思える出鱈目な裸体の人間の群れ、肉を食べているように見える犬やまるでチェスのボードのような場所に彫刻のようなポーズをして立っている人物もいます。
また、よく見ると右の山脈の奥にはナルシスと全く同じ形をした巨大な岩のようなものもずっと遠景に認められます。
こういった絵画モチーフには、シュルレアリスムの重要な手法が隠されています。さらに詳しく見ていきましょう。
ダリの制作の背景となった精神的不安
ナルシシズムというものは、精神分析学的にいえばコンプレックスの一つとして表現することができます。
自身の性的不能性(ED)などをコンプレックスとして肥大化させて捉えていたダリは、このナルシスの物語にシンパシーを感じる部分があったかもしれません。コミカルな天才肌キャラクターとして世間を騒がせるような活動を多くしたことも、精神分析的に見れば自身の不能性・自信の無さを補うための補填だったと言えるかもしれません。
この《ナルシスの変貌》は、ダリが提唱する「偏執狂的=批判的方法論」を典型的に表現する最初の作品でした。この方法論は、譫妄現象を批判的に解釈し、関連付けることで、非合理的なもの(作品)を生み出すというものです。(『The Conquest of the Irrational, 1942』)
簡単にいえば、夢や妄想などをフラットに解釈して画面上に置き直すことで、合理性ではないものに基づいて制作された作品が出来上がる、という意味です。
ダリが《ナルシスの変貌》によりシュルレアリスムの方法論を決定づけたことは、美術史的に見ても非常に重要なことでした。
ダリに影響を与えた人物たち
ガラ
ポルトリガトの聖母
本名をエレナ・イヴァノヴナ・ディアコノワという、ロシアをルーツにもつガラ・ダリは、サルバドール・ダリの芸術的アイディアの源泉となった女性でした。
二人が出会った時には、ガラはすでにポール・エリュアールという詩人と結婚していました。
しかし、その魅力に熱烈にアタックしたサルバドールの愛により、ガラとサルバドールは結ばれます。以降、ガラはマネージャーとして夫の活動を全面的にサポートしました。
また、彼女は文筆にも優れており、『サルバドール・ダリ自伝』という著書をベストセラーにする才能を持っていました。
ガラはダリの作品中に頻繁に登場します。例えば《ポルトリガトの聖母》などでは、画家の深い愛情が、妻を聖母マリアに見立てて描くという姿勢に現れています。
ルイス・ブニュエル
映画作品《アンダルシアの犬》をダリと共同制作したルイス・ブニュエルとの関係も深いものでした。
この映像は、まさに夢の中の出来事を現実化したもので、明確な筋書きや話の展開などは存在せず、ただ支離滅裂な出来事が続きます。
映画《アンダルシアの犬》より
ジークムント・フロイト
ダリはフロイトの『夢判断』をはじめとする著作を読み込んでおり、フロイトが示した事例などに、自身の性への不安などの独自の解釈を加えました。
フロイトは、意識の下に閉じ込められている無意識の欲望が、夢を通じて出現すると考えました。
ダリはそれに基づき、自身の夢を再解釈して絵画として構成し直しました。
TRiCERA ARTでシュルレアリスムの作家に出会う
弊社TRiCERA ARTでは、世界126カ国のアーティストが作品を出品しています。
その中には、ダリから色濃い影響を受けたシュルレアリスムと呼べる作品も多数存在します。今回は、この記事をお読みになった方にTRiCERA ARTで人気の3人のシュルレアリスム作家をご紹介いたします。
M. Febriandyはインドネシア出身の画家。段ボールのような質感でポートレートを描く彼は、段ボール芸術的であり、機能的かつファッション的な哲学を持っていると言います。
Le jeune Macron
W 50.00cm x H 60.00cm|¥161,800
Labudakは、奇抜でユーモラスな作品で注目を浴びています。日常で思いついた些細なアイディアと古典絵画を組み合わせることで、奇妙なシュールさを持った作品を多く発表しています。
Eye Opener
W 40.60cm x H 50.80cm|¥40,400
断片的ではあるが、最終的には首尾一貫し、ある一つの物語を作っているようにも見える作品を発表するRoussakisは、ギリシャ出身のコラージュ・アーティストです。
通常はありえないモチーフを同じ画面内に同居させるという手法は、ダリによって確立されたシュールレアリスムを体現しています。
Maritime Museum
W 100.00cm x H 100.00cm|¥199,900
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