アート思考とは何か?
ここ数年のビジネスシーンで話題になる「アート思考」。一体、アート思考とは何を指すのでしょうか?
オリジナリティのあるプロダクトを創出するために必要不可欠とも言われている思考法を、ビジネスパーソンに身近な考え方である「クリティカル・シンキング」や「デザイン思考」との違いから論じてみます。
クリティカル・シンキング
ビジネスパーソンとして様々な業務を行う際に高頻度で必要とされる「クリティカル・シンキング」。日本語に直せば、「批判的思考」と言うこともできるでしょう。
この方法においては、論理的推論によるタスク分析・物事の構造的理解と、到達目標を設定した上でそこに不足している現況を客観的・批判的に観察し適切な意思決定を行うという行為が要求されます。「ロジカル・シンキング」とも親和性の高い思考法です。到達目標に応じて正解を定め、そこに辿り着くまでの道のりを逆算して思考していくという特徴があります。タスク分析の段階においても、冷静に・客観的に事実と意見を峻別することが求められます。
すなわち、常に「これは私たちの偏見ではないか?」「主観で意見していないか?」「到達目標に対して現実的なインパクトがある行動が取れているか?」といった問いかけを自分自身にしていくことになります。
この思考法のメリットは以下のようなものが挙げられます。そもそもの組織や仕組みを構造的に理解し応用できるようになること、明示的に存在している問題への論理的解決策を提案できるようになること。
それに対して、デメリットという表現は必ずしも適切ではありませんが、デザイン思考やアート思考によって補うべき点を持っているのも事実です。それをさらに見ていきましょう。
デザイン思考
デザイン思考においては、利用者に深く共感することにより、利用者の潜在的な課題にアプローチし解決策を生み出します。二番目の過程において上述の論理的思考は当然必要とされるため、包含関係にあると見ることもできます。クライアント(ビジネスパートナー)やカスタマー(サービス利用者)の声を出発点として問題認識をスタートさせるという特徴があります。クリティカル・シンキングのみに頼っていても前例の多数見られるありがちな解決策しか提案できない場合に、デザイン思考で発想の転換をできることがあるでしょう。
ニーズからの出発により、前例のない解決策を提示しなければならない場合に有効な思考法と言えます。UXデザインの分野などでは最も基本的なアプローチになっています。
アート思考
上記二つの思考法と比較して、アート思考はまだ提唱されてから日が浅く、定義も定まっていません。さまざまな実践者に共通するのは、真にイノベーティヴな創造を目標とし、「個の問題点」から出発することでそれに到達しようとします。これはデザイン思考とは逆のベクトルを持っています。
アーティストが作品を作る時、必ずしも誰か他の人の意見を聞きニーズに対応したプロダクトを生産するというプロセスを経ているとは限りません。むしろ、大多数のアーティストは「自分の」問題点を発掘し、それを解決するための作品を「主観的に」発想する、といったプロセスを経ることが多いと言えます。ロジックやデザインを活かしても真にイノベーティヴなプロダクトの開発ができずに伸び悩んでいるといった事業においても、このような主観的な出発点が役に立つことがあるのです。
アート思考のメリットは「今までに無かった価値の創造」にあります。アート思考の実践者として著名なSoup Stock Tokyo代表の遠山正道氏は、自身もアート制作を行なっていました。その経験を活かして「スープを主食にする生活」という今まで誰も想像しなかったライフスタイルを創造し、2019年には創業20周年を迎えるほどの歴史を刻んでいます。
しかし、ここまで読んだ方の中には「それってクリティカル・シンキングと真逆じゃない?」とお想いになった方も多いでしょう。完全に逆とは言えませんが、確かに方向性が全く異なるのは事実です。むしろ、プロダクト創出の最も初期段階ではアート思考で発想をし、その事業化の過程ではクリティカル・シンキングとデザイン思考を組み合わせて対応する、という使い分けが自然かもしれません。脳のさまざまな部分を駆使して新たな価値の創造を目指すことが、真に成長するビジネスにつながるでしょう。
アート思考を実際に学べる芸術作品は、こちらの記事で紹介しています。