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  • CURATOR’s EYE

サルバドール・ダリ《記憶の固執》を徹底解説

2023/01/12
TRiCERA ART TRiCERA ART

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《記憶の固執》1931年

サルバドール・ダリの代表作といえば、溶けて柔らかくなった時計を描いた《記憶の固執》。
この初期の作品は、ダリ自身のアイデンティティを最もよく表現している傑作です。
また、ありえないモチーフを組み合わせて非現実的な絵画を作り上げたシュルレアリスムの代表作でもあります。
しかし、一見すると意味不明とも感じられてしまい、鑑賞者の視線をするすると交わしていくような力を持っているようにも見えます。
ダリが何を表現したかったのか、その美術史的な意味を解説していきます。


《記憶の固執》ってどんな作品?

《記憶の固執》は、1931年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。ダリ初期の作品であり、代表作です。
現在本作は、ニューヨークのニューヨーク近代美術館に収蔵されています。
別名として、「柔らかい時計」や「溶ける時計」と呼ばれることもあります。
本作が初めて展示されたのは1932年。場所はニューヨークのシュルレアリスム専門の画廊ジュリアン・レヴィ・ギャラリーでした。1934年に匿名の人物によりニューヨーク近代美術館(MoMA)に寄贈されました。


不安と欲望、うちなる衝動の表象

柔軟性と剛性の対比=不安と欲望の同時表現

《記憶の固執》の中で描かれている溶けている時計は、ダリによれば、キッチンで画家のパートナー兼モデルのガラが味わっていたカマンベールチーズが溶けていく状態を見てインスピレーションを得たといいます。基本的な創作源泉はこの一件で、画家の即興性を作品に昇華する力量が見て取れます。
また、時間を表象する時計によって、過去である「記憶」が表されていると考えられます。
記憶が溶け出してしまうほどの、何か偏執的でこだわりを持ったダリの情熱。不安と欲望が同時に形になったようにも感じられます。

夢の光景の現実化—フロイトの夢判断

そして、「固執」という言葉も、作者の奇妙な熱狂性をうまく表現していると言えます。
ダリが固執したのは、夢のような妄想のような光景を現実化したものでした。
これは、ジークムント・フロイトによる夢判断により、ダリ自身の性的倒錯を現実化したものだと考えることができます。
また、シュールレアリスムの考え方を日本に紹介した美術批評家の澁澤龍彦は、ダリについてこう評しています。

「ダリのなかには、おそらく、形のはっきりした堅固なものに対する知的な執着と、形のさだまらないぐにゃぐにゃしたものに対する無意識の執着との、奇妙なアンビバレンツ(両極性)が潜在しているのにちがいない」


偏執狂的=批判的方法

ダリの作品制作手法は、「偏執狂的=批判的方法」と 呼ばれています。
自身の性的な苦悩などをインスピレーションとして絵画を描いてはいますが、ただ単に熱情に突き動かされるように作品が作られるわけではありません。
妄想的なイメージを生み出しつつも、同時に客観的にそれを形に落とし込んでいく。
そのような矛盾した、しかしダリの制作の根幹になっている姿勢を、自ら「偏執狂的=批判的方法」と名づけました。


ダリはなぜ両極的なものに惹かれたのか?

ダリのED問題

ダリはなぜ、「硬いもの」と「柔らかいもの」に固執していたのでしょうか?
実は彼は、幼い頃から女性に対する恐怖心を長く抱えていました。
幼い頃、父親から梅毒(性病の一種で、症状が進むとグロテスクな組織壊死が見られる)の生々しい映像を見せられたことが、女性への恐怖を強めたのかもしれません。

《カタルーニャのパン》や《大自慰者》に見られる表現

このようなトラウマが原因でダリはEDだったと言われており、彼の「硬いもの」と「柔らかい」ものへの執着は、ED問題が根底にある可能性があります。
ダリ自身の性的不能に起因すると考えられるような表現は、ほかにも《カタルーニャのパン》や《大自慰者》といった作品にも見られます。
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《カタルーニャのパン》1932年

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《大自慰者》1929年


時空の歪みとアインシュタイン

一般相対性理論との共通点

美術批評家は、《記憶の固執》が時間と空間のゆがみを示していることをしばしば指摘しています。
中には、画家はアインシュタインの「一般相対性理論」の考え方を作品に取り入れたと考える研究者もいます。

一般相対性理論とは、光速を唯一の不変自然量とし、それに従えば高速で動いた場合や大きな重力が働いている空間では光と時間が伸びたり縮んだりする、ということを提唱した科学理論です。
美術史家ドーン・エイズによれば《記憶の固執》は時空のひずみを象徴しており、時間の中のさまざまな一時停止した瞬間(現在進行形、過去)を同時に描いているといいます。

未来—現在—過去の時間軸

《記憶の固執》では、3つの時計が描かれていますが、どれも別々の時間を示しています。
それらは未来—現在—過去の3つの時間軸が混在している状態を表しているのかもしれません。
このようなコンセプトは、ダリが中心となっていたシュルレアリスム運動への傾倒から生まれたと思われます。
シュルレアリスムの原理はダリの作品の根幹をなしていると言えるでしょう。
なお、物理学者のイリヤ・プリゴージンから科学的問題を問われたダリは、科学が彼のインスピレーションの主なポイントなのではなく、ただカマンベールチーズが溶けていくことに興味を持っただけだと話していたといいます。


中央の不思議な生き物

自画像のようなモチーフ

《記憶の固執》で気になるのが中央に配置されている餃子の皮のような白い謎の生物でしょう。これにはどんな意味があるのでしょうか?
打ち上げられたクジラや巨大イカにも見えるこの得体の知れない白い生物は、同じ年、1929年に描かれた《大自慰者》にも登場します。
これは、ダリの作品の多くに登場する画家自身の自画像かもしれません。

ダリの自画像である白い生物(大自慰者)は目を閉じて眠っています。目を閉じて夢を見ているようにも見えます。
《記憶の固執》では、ダリはゆっくりと溶けていくカマンベールチーズと自身を同一視しているようなところが見られます。 どのようにしてチーズとダリ自身を重ね合わせたのでしょう。

「溶ける」ことの意味

「溶ける」という現象は、ダリにとって内的で繊細な、そして無意識的なこと—肉体的・性的な興奮、衰退、崩壊、などを感じさせました。
一方、「硬質性」もしくは「硬化」という現象は、知的行為や確かな地盤などの確固たるもののイメージと結びついていたでしょう。


オレンジの時計のアリの謎

蟻は何を意味しているのか?

左下にあるオレンジ色の時計にはたくさんの蟻がいます。サルバドール・ダリの作品において、蟻の存在は「腐敗」という概念を象徴しているといいいます。
このイメージは、ダリが5歳のときに目撃した、昆虫が蟻に食べられるという出来事から、ダリの想像力の中に深く根付いているのでしょう。
幼いダリにとって、殻をくり抜かれ、中身がなくなった昆虫の姿は、ショッキングな光景でした。その結果、蟻はダリにとって死や腐敗の視覚的メタファーとなり、またそれが倒錯的に作用し、性的衝動のメタファーとなりました。
蟻と腐敗をテーマにした作品は、ほかに《回顧的女性像》があります。
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《回顧的女性像》1933年


故郷カタルーニャの風景

画面右上に描かれているごつごつした岩の多い場所は、ダリの故郷スペイン・カタルーニャにあるクレウス岬の風景です。
ダリ作品に現れる多くの風景は、カタルーニャから影響を受けています。
パニ山脈の麓にあったダリの両親の別荘から見た風景は、ダリに影響を与えたのでしょう。
《記憶の固執》では、研究者によれば、カタルーニャの代表的な山であるパニ山脈の影が前面にあり、クレウス岬とそのゴツゴツした海岸が背景に描かれていると考えられています。
上述のようなダリの個人的な性的・精神的倒錯のみではなく、自然などの背景も取り込まれていることが、《記憶の固執》に時代を超える魅力を加えています。
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夏のカタルーニャ

《記憶の固執の崩壊》に見るダリの変化

変化したダリの考え方

1954年にダリは《記憶の固執》を基盤としたリメイク作品《記憶の固執の崩壊》を制作しています。
この二つのバージョンの間に、ダリ自身のコンセプトの明確な推移が見られます。最初の絵は、ジークムント・フロイトが開拓した夢分析に魅了されたゆえの「フロイト時代」の真っただ中に制作されたものです。性的倒錯や性的衝動がそのまま絵画中のモチーフに投影されていると考えてよいでしょう。後者が描かれた1950年代には、ダリの隠された創造的源泉は原子時代の科学になっていました。のちに画家はこう語っています。

「シュルレアリスムの時代、私は内的な世界、つまり私の父フロイトの驚異的世界のイメージを作りたかったのです。私はそれに成功した。しかし、今日、外的な世界、つまり物理学の世界は、心理学の世界を超越している。現在の私の父は理論物理学者のハイゼンベルク博士なのです」


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《記憶の固執の崩壊》 1952 - 1954年


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現代アートの歴史・楽しみ方・各アートジャンルの解説など、役に立つ情報を芸術大学卒業のキュレーターが執筆しています。TRiCERA ARTは世界126カ国の現代アートを掲載しているマーケットプレイスです。トップページはこちら→https://www.tricera.net