モーリス・シャバ|Return to Cythera, c. 1900
象徴主義とは何か?3点要約
💡不可知な神秘性をテーマとする
💡儀式的な落ち着いた雰囲気を擁する絵画が多い
💡神話などの物語を題材に求めている
象徴主義の代表的作家
象徴主義は、耽美主義などとかなり重なったカテゴリーです。そのため、耽美的な作品で有名な画家も象徴主義としてカテゴライズされることがあります。例えば、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ジョン・エヴァレット・ミレイ、オディロン・ルドン、ギュスターヴ・モロー、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、モーリス・シャバ、ジェームズ・アンソール、ジョヴァンニ・セガンティーニなどがいます。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティはイングランドの画家で、ラファエル前派の一員として数えられます。他のラファエル前派の画家たち同様、聖書、伝説、文学などに題材を求めた作品を多く描きましたが、技法的には仲間の他の画家たちのような徹底した細密描写は得意ではありませんでした。また、人物像の解剖学的把握にもやや難があり、全体として装飾的・耽美的な画面構成の作品が多いのが特徴です。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ|Beata Beatrix, 1864–1870
ジョン・エヴァレット・ミレイも同様にラファエル前派の一員で、このグループのリーダー的存在の画家です。美術評論家のジョン・ラスキンがラファエル前派を擁護するように述べた「芸術は自然に忠実でなければならない」という主張は、ラファエル前派が作品を創造する上でのモットーとなりました。
ジョン・エヴァレット・ミレイ|Ophelia, 1851–52
ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌは独特の雰囲気を醸し出す、物語絵画と自然風景を組み合わせたような絵画で有名です。日本でも早くから紹介されており、黒田清輝などが影響を受けています。
ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ|Le Pauvre Pêcheur, 1881
モーリス・シャバは落ち着いた色彩によって穏やかで少し不穏な光景を特徴とするような絵画を制作しました。色彩と主題には、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌから受けた影響が見られます。
モーリス・シャバ|Reverie au Bord du Lac, 1900
ジェームズ・アンソールの仕事は他に類を見ない個性的なもので、特定の流派に分類することは難しいと言えます。その一方、パウル・クレー、エミール・ノルデなど多くの著名な画家に影響を与えました。また、20世紀の主要な美術運動であった表現主義やシュルレアリスムにも影響を与えていることから、20世紀美術の先駆者として高く評価されている画家です。
ジェームズ・アンソール|L'Intrigue, 1890
ジョヴァンニ・セガンティーニはアルプスの風景などを題材とした絵画を残し、アルプスの画家として知られています。一方で《悪しき母達》など神秘的で退廃的な作品を残したことから、作風は世紀末芸術とされることもある、多面的な作家と言えます。
ジョヴァンニ・セガンティーニ|The Bad Mothers, 1894
象徴主義の成り立ち
象徴主義(Symbolisme)という語は、1886年に「象徴主義宣言」«Le Symbolisme» をフィガロ紙にて発表した詩人ジャン・モレアスによって提案されました。”Symbole” という語の語源である「一緒に投げること」を利用し、抽象的な観念とそれを象徴するような文学表現との類比関係を指し示しています。
美術における象徴主義は、ロマン主義のゴシック的な側面から出現しました。また、象徴主義は自然主義への反動でもありました。「観念に感受可能な形を着せる」ことが重要とされたともいわれています。自然主義者とは対照的に、象徴派は事物を忠実には描かず、理想世界を喚起し、魂の状態の表現を特別扱いする印象や感覚を探求しました。
ロマン主義が直情的かつ反逆的であったのとは対照的に、象徴主義は静的で儀式的という特徴を持っています。宗教の面で見れば、象徴主義における不可知なものや神秘的なものに対する偏愛は19世紀末のカトリック復古運動にもつながっていきます。それは作家オスカー・ワイルドや画家オーブリー・ビアズリーのカトリック改宗に見られます。また、俗化した従来の宗教制度を忌避する態度は、カトリック復古という現象にとどまらず、新興の神秘主義団体の発生をも促しました。
参考文献