ギュスターヴ・クールベ|Bonjour Monsieur Courbet, 1854
写実主義(リアリズム)とは?3点要約
💡対象を忠実に表現することを目指す
💡美しくない光景をリアルに描き出す
💡社会問題をしばしばテーマとする
理想的でないという理想
リアリズムとは、人為的なものを排除することで思弁的・超自然的な要素を避け、対象を忠実に表現しようとする主義を指します。
わざとありふれた光景や醜いと思われているものを描くことにより、真実に近づこうとする姿勢だと言えます。政治的なニュアンスを含むこともあり、自由主義の風を感じ始めた市民の存在と左翼政治の台頭によって、リアリズムの画家は自身の表現に確信を持つようになります。写実主義者たちは、18世紀後半にフランスの文学と芸術を支配していたロマン主義を否定することで自らの主張を擁護しました。
一般に、形容詞として「リアリスティック」という言葉から連想されるのは、「現実主義」という言葉に近いイメージかもしれません。それは視覚的に現実を忠実に再現することを目標とするスタイルを指します。しかし、クールベらが推進した「写実主義」は、必ずしも視覚的再現性を求めるものではありませんでした。むしろ、当時の社会状況や画家自身を取り巻く「日常的な」「理想的ではない」「美しくない」現実を描写することに重きを置いていたという方が正確でしょう。
ロマン主義の否定
写実主義の提唱の前夜には、フランスの美術界はドラクロワに代表されるロマン主義や古典主義・新古典主義などの、理想的な美やイメージを再現するスタイルが一般的でした。それに不満を覚えた画家たちが、クールベの蜂起に賛同し、徐々に仲間を増やしていきました。このような流れは美術史上にすでにみられており、ルネサンスやバロックと呼ばれた芸術運動も、前時代的な理想主義を破壊するための試みでした。
写実主義の代表的作家
ギュスターヴ・クールベ、ジャン=フランソワ・ミレー、風刺画家のオノレ・ドーミエや、ジュール・バスティアン=ルパージュ、アレクサンデル・ギェルィムスキなどが挙げられます。
ギュスターヴ・クールベ|The Stone Breakers, 1849
ジャン=バティスト・ミレー|Le Semeur, 1850
オノレ・ドーミエ|Victor Hugo. Le Charivari (1849年7月20日号)
ジュール・バスティアン=ルパージュ|October, 1878
アレクサンデル・ギェルィムスキ|Trumna chłopska, 1894
各国での写実主義の受容
フランスで始まったリアリスト運動は各国にも波及し、ロシアではイリヤ・レーピン、ヴァシリー・ペロフ、イヴァン・シーシキンといった画家たちが共鳴しました。これらの作家たちは、1871年から展覧会を開催した「移動派展」を組織し、その後のロシア美術に多大な影響を与えました。
イリヤ・レーピン|Barge Haulers on the Volga, 1870–1873
ヴァシリー・ペロフ|The Hunters at Rest, 1871
イヴァン・シーシキン|Morning in a Pine Forest, 1889
また、イギリスでもフーベルト・フォン・ヘルコマーやルーク・フィルズといった画家が社会問題を扱ったリアリズム絵画で大きな成功を収めました。
フーベルト・フォン・ヘルコマー|Eventide: A Scene in the Westminster Union, 1878
ルーク・フィルズ|A Venetian Flower Girl, 1877
参考文献