特殊な視覚の効果を利用して平面の絵から、奥行きや動きを表現することができるオプ・アート(op art)。その巨匠達から大きな影響を受けたSean Christopher Wardは、スケッチやデッサンのように見たままを素直に描くのではなく、視覚的な効果を取り入れることで、記憶に大きな印象を残すアート作品を制作している。均一的な塗りが特徴的だが、デジタルプリントでは無く、木製パネルにアクリルで制作されているのが驚きだ。
(Audrey/61cm×61cm/アクリル)
作品詳細はこちらから
1.経歴と活動
Sean Christopher Wardは学際的なアーティスト、デザイナー、ギャラリスト、ミュージシャンであり、オプ・アートの表現を用いながらアニメーションや絵画の制作に力を入れている。世界中に600点以上もの絵画がコレクションされており、ボブ・ディランやエルトン・ジョン、ピクシーズなどの著名人達が個人的にコレクションしていることでも知られている。アートの世界で大きな成功を収めている彼だが、コミュニティを大切にしており「HUE Gallery of Contemporary Art」や「Gallery Nocturnal」というスペースを提供して、世界各地の現代アートの芸術家達と一緒に仕事をしたり、展示をしている。
2.コミュニティを大切にする前向きな捉え方
コミュニティを作ることで閉鎖的な考え方をするのでは無く、常に新しいセンスを取り込んでいきたいという非常に前向きな見方をしており、常に最先端のアートを求める探求心と意欲を感じる。
3.オプ・アートと記憶の表現
人物を描く場合、オードリーヘップバーンやベートーヴェン、アクションスターであるブルース・リーなど世界的な著名人をモチーフにしている。誰でも一度は顔を見たことこのような人物達だ。知名度が高い人物を選んでいるのは理由がある。私達の記憶にある著名人達の記憶も、短い期間ではクリアな情報として捉えているが、長い時間が経ってしまうと、脳の仕組みの関係で徐々に記憶が薄れて、断片的なものへと変化してしまう。しかし全てを忘れてしまうわけでは無く、情報は必ず欠片になって残っていて、そのような記憶の欠片を絵画で表している。「Beethoven」という作品の中では、ストライプの線の太さを変えてベートーヴェンを表現しており、離れて見てみるとベートーヴェンの顔がリアルに浮かび上がってくる。写実的に描くのでは無く、錯覚的なオプ・アートの効果を使って、時間の経過による記憶の曖昧な欠片を表現した作品だ。
(Beethoven/61cm×61cm/アクリル)
作品詳細はこちらから
4.記憶の欠片を残すアート
脳では薄れてしまった記憶を、情報の欠片からもう一度読み込み鮮明な状態に戻すことはできない。でも心は時が経っても精神的に感じた情報を付け加えて、自分の中で新しく形作ることができる。そのような欠片たちが心の中や、Sean Christopher Wardの作品の中に描かれて保存されていくことで、社会を支え続けている。そして社会を支え続けるものは、また誰かの心の中で生き続けていくことになるという想いが作品に込められている。
5.パターンから受ける刺激
人物をメインにした作品以外にも、幾何学模様のようなパターンによる模様が表現されたアート作品がいくつか存在している。その1つが「Are You In or Are You Out」という作品だ。ここでは認識できるパターンが多い程、想像力や創造力の幅が広がるという事柄について言及されている。私達は様々な行動パターンを分析してスポーツで有利に動いたり、身体的なパターンを分析することで病気のリスクを減らすことができる。色のパターンの特徴の1つでもある濃淡を見ているだけで、想像力やモチベーションが上がるという研究結果が実際に出ているそうだ。パターンを研究することで脳は、意識的に良い選択をすることができる。これをSean Christopher Wardは「動物に対する人間の進化のエッジ」と表現。確かに動物にはパターンから学習することはできない。虹色に描かれた背景は日々の様々な行動や思考を表していて、その上に無意識になぞるよう行っているパターン的な行動を幾何学模様のように表現することで、見ている私達が物理的にも心理的にもパターンによる刺激を受けるように工夫されている。
(Are You In or Are You Out/45.7cm×61cm/アクリル)
作品詳細はこちらから
6.論理的なメッセージ
Sean Christopher Wardの作品からは、科学的な面と心理的な2つの面から照らし合わされたメッセージが伝わってきた。根拠も出しつつ自分の考えを現代アートに取り込んでおり、ビジュアル的な綺麗さだけでは無く、自分の中での記憶の捉え方や日常的なパターンについて考えさせられる点が多くあった。現代アートの最先端を日々探求し続けている彼の、その先のアート作品をこれからもチェックしていきたい。
今回ご紹介の作品はTRiCERAで販売しております。